研究課題
高生物生産力の西部北太平洋亜寒帯循環域における表層は、アルカリ度の増加によって、酸性化の抑制と冬季二酸化炭素放出量の低下が起こり、中層では、有機物分解の増加による低酸素化と人為起源二酸化炭素の蓄積による相乗効果によって、酸性化が加速している。この特異な現象の要因は未解明で、海洋生物への影響は未評価である。本研究は、西部北太平洋亜寒帯循環域の時系列観測点K2において、特異な酸性化の進行を捉え、化学的と物理学的視点からそのメカニズムを解明し、生物への影響を評価することが目的である。平成27年度は以下を実施した。1. 時系列自動採水器による係留型時系列観測の実施:自動昇降計測ブイシステムなどを搭載した係留系を平成27年7月にK2に設置した。中層の急速な酸性化の変動を詳細に捉えるため、係留系に時系列自動採水器(200m 300m)、新開発のハイブリッドpHセンサー(200m)を設置した。さらに、酸性化を引き起こす物理的要因を探るため、表面から500mまでにCTDOセンサー、約400mに多層流向流速計を取り付けた。2. pH/CO2センサーの実海域試験と実施:開発されたpH/CO2センサーの鉛直方向への実績を実海域において確認するため、水深3000m までの鉛直観測を行った。3. 溶存化学成分データから見た混合層での酸性化による生物への影響:混合層内の酸性化を明らかにするために、pH、溶存無機炭素、アルカリ度、栄養塩等に関し、各月の気候値と観測値の差の経年変化を求めた。その結果、混合層のpHは0.0015/yrで低下しており、他の外洋域の時系列観測点とほとんど同等であった。4. 海洋酸性化を引き起こす物理的要因:2000年代半ばの西部亜寒帯循環の北への収縮が冬季混合層の底部にあたる温度極小層の深化をもたらした結果について、国際誌Ocean Dynamicsが出版された。
2: おおむね順調に進展している
時系列自動採水器による係留型時系列観測を実施した点、西部亜寒帯循環が最近10年で顕著に弱化した結果について論文受理された点、混合層の酸性化の結果について、国内外の学会で発表した点から、区分2に該当すると判断出来る。
・K2に設置した自動昇降計測ブイシステムとセジメントトラップを搭載した係留系を、平成28年6月に回収後、再設置する。中層の急速な酸性化の変動を詳細に捉えるため、係留系に時系列自動採水器(200m 300m)とpHセンサー(200m)を再設置し、回収された自動採水器の試料を分析する。また、表面から500mまでにCTDOセンサーと約400mに多層流向流速計を取り付け、酸性化を引き起こす物理的要因を解析する。平成28年11月にも時系列観測点K2での船舶海洋観測を実施し、酸性化に関わる化学成分などを取得する。・採水器にpH/CO2センサーを取り付け、水深3000mまでの鉛直観測を引き続き行う。採水分析データと比較することでpH/CO2センサーの性能を評価することができれば、今後、係留系に取り付けることで1年を通じてpHとpCO2のデータを取得することができ、海洋酸性化や物質循環研究にとって有用なツールとなることが証明される。・2015年までのデータを基に、酸性化に影響を与える他の要因の経年変化を調べ、生物生産と炭酸カルシウム生成への影響を求める。・西部亜寒帯循環の変動要因を明らかにするために、風応力、加熱・冷却、および降水・蒸発による海面強制と海面高度の変動の関係を明らかにする。さらに、以上の結果について、学会や論文で公表を進める。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Ocean Dynamics
巻: 66 ページ: 163-172
10.1007/s10236-015-0917-8
Journal of Oceanography
巻: - ページ: -
10.1007/s10872-015-0341-1
10.1007/s10872-015-0308-2
http://www.jamstec.go.jp/souran/html/Masahide_Wakita001694-j.html