植物型光合成を行うシアノバクテリアは,光エネルギーを用いた効率的なエネルギー生産や環境汚染物質分解等の物質変換に有用な微生物である。本研究では,シアノバクテリア利用の鍵となるシアノバクテリアに特徴的な電子供給系の解明を進めるとともに,芳香族性環境汚染物質などの多様な有機化合物を代謝・分解できる新規シアノバクテリア株の作製を目指している。最終年度であるH30年度の研究実績の概要は以下の通りである。 1. シアノバクテリア細胞内でのビフェニル分解細菌由来電子伝達系タンパク質への電子供給経路の探索 前年度までの大腸菌を用いたスクリーニングによってビフェニル分解細菌由来のRieske型フェレドキシンであるBphA3への電子供給体である可能性が示されたシアノバクテリアSynechosystis sp. PCC6803のSlr0600遺伝子産物について,遺伝子組換え型タンパク質を精製し,この遺伝子産物がグルタチオン依存的にBphA3を還元することを明らかにした。この結果からシアノバクテリア細胞内でのBphA3への電子供給経路の1つが明らかになった。また,この結果はシアノバクテリア細胞内でのSlr0600遺伝子産物の生理的役割を解明する上でも興味深い。 2. 薬物代謝酵素導入シアノバクテリア株の改良 光誘導型プロモータ制御下にラット由来シトクロムP450 1A1遺伝子を発現する新規シアノバクテリアSynechosystis sp. PCC6803変異体株について2-クロロベンゾ-p-ジオキシンの水酸化活性を測定し,従来のtacプロモーターを用いた変異体株の水酸化活性と比較した。その結果,光誘導型変異株が従来株の約30%の水酸化活性を保持していることが明らかとなった。光誘導型変異株では発現誘導剤の添加が不要であり,生物学的環境修復における有用性が示唆された。
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