研究課題/領域番号 |
15H02843
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
山崎 秀雄 琉球大学, 理学部, 教授 (40222369)
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研究分担者 |
山城 秀之 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 教授 (80341676)
須田 彰一郎 琉球大学, 理学部, 教授 (00359986)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | サンゴ礁 / 環境変動 / 病理学 / 毒素 / ブラックバンド病 / シアノバクテリア / アミノ酸 / 硫化水素 |
研究実績の概要 |
致死性のサンゴの感染症(ブラックバンド病,BBD)が局所的に大発生している場所の観察を実施した(伊是名島南岸および読谷村残波岬の礁原、いずれも被覆状コモンサンゴで感染率7-8%)。今回、BBDに犯された箇所にGFP様の蛍光性のスポットを発見した。水溶性のGFPとは異なる物質で、酸やアルカリ耐性があり安定な化合物であった。明るい時間帯あるいは罹患サンゴ上面にのみ形成されることから光の影響を受けて生成されると考えられる。 形態的特徴と単一糸状体PCR法による16S rRNA遺伝子部分塩基配列により、場所と時期の異なる3サンプル(瀬底島周辺1カ所、宮古島2カ所)の全てのマット形成シアノバクテリアがRoseofilum reptotaeniumとである事が明らかとなった。また、瀬底サンゴ礁域の16S rRNA遺伝子部分塩基配列に基づく海水メタゲノムの季節変化データと、沖縄を含めた琉球列島とカリブ海のサンゴ骨格およびサンゴ礁岩盤からのtufA遺伝子部分塩基配列によるメタバーコーディングデータ解析の結果から、Roseofilum reptotaeniumおよび近縁な存在は認められず、環境中のBBDシアノバクテリアの存在は局所的であることが示唆された。 BBD組織壊死の原因の一つと考えられる硫化水素の発生機構について、タマネギをモデルとして検討を行った。その結果、L-システインを基質とした酵素システムの他、D-システイン、D-アラニン、L-アラニンを基質とした未知の酵素による硫化水素発生機構の存在が示唆された。硫化水素発生機構に関わるD-アミノ酸代謝に関わるD-アミノ酸酸化酵素(DAO)の新規活性測定法の検討を行った。生産物である過酸化水素をリアルタイムで蛍光検出する手法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
BBDの野外での発症地点や罹患状況の情報は確実に積み上げられ、またBBD以外の感染症(ホワイトシンドロームやレッドバンド病)の知見も得られている。BBDに対して簡便・安価かつ再発を伴わない治療法(常時暗黒処理)を確立した。 調査した限り沖縄域のBBDシアノバクテリアは遺伝的にRoseofilum reptotaeniumであることを明らかにできた。また、BBDシアノバクテリアや白化後の増殖シアノバクテリアの自然状態の生育状況の観察から、これらのシアノバクテリアの生育には、サンゴ組織の破壊(分解)が先行するが、生育は長続きせず、他に取って代わられることが認められた。また、様々な培養液を試しても増殖は認められず、唯一維持できたのは栄養分を加えない濾過海水のみという結果も得られており、理解が深まっている。 微生物間の相互作用の鍵となる硫化水素の発生機構とD-アミノ酸分解酵素の測定法の基盤が確立された。硫化水素の発生に関わる生化学的知見は乏しく、D-アミノ酸の生理作用もほとんどが不明である。今回、未完成ながら、新規開拓分野に知識基盤を形成できたことの意義は大きいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの本計画の実施によって、ブラックバンド病(BBD)の治療には暗黒処理が有効であることが明らかになっている。今後は、暗黒処理以外に、紫外線照射処理や天然の抗菌成分処理等の他の有効な治療法の探索を実験的に行う。BBDの消長にどのような環境要因が影響を与えるのか、環境条件を変化させた飼育実験を行い、メタゲノム解析による細菌叢変化の比較を行う。前年度で明らかとなった、in vitroの実験結果を用いて、BBD羅漢サンゴあるいは健常サンゴを用いた比較実験を実施し、病変誘発因子、促進因子、停止因子の絞り込みを行い、計画最終年度にBBDに関する病変モデルを提出する。
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