研究課題/領域番号 |
15H02844
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
三苫 好治 県立広島大学, 生命環境学部, 教授 (20301674)
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研究分担者 |
奥田 哲士 龍谷大学, 理工学部, 准教授 (60343290)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 除染 / 放射性汚染物質 / ナノ粒子 / 分級 |
研究実績の概要 |
復興が進むにつれ,仮置き場に運び込まれる汚染土壌量は莫大となり,その減容化は喫緊の課題である。既存法の湿式土壌分級法や熱分離法では,それぞれ廃水処理や過酷な処理条件に伴い,コスト高に繋がる等の課題がある。このような状況下,当該研究者らは常温常圧下,無溶媒条件下で迅速に高濃度汚染土壌(総量に対して約90%の放射性物質量)を磁力選別し,汚染土壌量を約40%に減容化する新技術を開発した。今回の研究では,より高度な浄化を求めるニーズに応えるために,乾式磁選後の高濃度汚染物(=磁着物)に対して熱分離工程を組み込んだ新技術を開発することを目的とする。 今年度は、前年度に引き続き,真砂土,水田土壌,広葉樹林土壌を10kgオーダーで採土し,風乾細土(乾燥した2mmアンダー土壌)を調製した。次いで,それらの初期物性(鉱物種類と量,有機物種類と量,含水率,粒度分布など)を求めた。次に,調製ナノ粒子(金属Ca/Fe/添加剤からなる粉体)の添加量等(添加量に加え,ナノ分散体の組成,混合方法,土壌成分との関係など)と土壌磁着量との関係,分離される土壌粒子径の把握を行った。その結果,300μm以下の土壌を乾式分級できるナノ分散体を調製することに成功した。次に,分級前後の土壌(原土,磁着土壌<小粒径>,未磁着土壌<大粒径>)に対して,加熱処理を施し,熱処理前後で各処理土壌区のセシウム濃度がどのように変化するか検討した。その結果,土壌種にもよるが600℃から800℃で安定セシウムを熱分離可能であることを実証した。安定セシウムの熱分離効率はppmオーダーで99%以上を達成した。汚染土壌を磁着分離した後に,続いて熱分離を行う本システムは,処理対象土壌の約60%を低濃度土壌として磁力選別可能なことから、熱分離すべき高濃度のセシウム土壌量を大幅に抑えることができることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
模擬土壌として、真砂土,水田土壌,広葉樹林土壌の3種を選定し,それらの化学組成(蛍光X線),無機系鉱物種の同定(XRD),ナノ分散体の土壌吸着能に影響を与えるpH,伝導度,無機イオン量(ICP),有機物量の推定(熱灼減量値。また水溶性有機物量はTOC。),有機物の種類(IR),粒子系に影響を与える含水率について情報を整理した。 次に,ナノ分散体を金属Ca,Fe,及び添加剤(焼却灰由来の材料)を加えて調製した。得られたナノ分散体と模擬土壌を加えて添加混合を行い,続いて分級を行った。使用する磁石の強度,撹拌方法,及び撹拌時間などを最適化し,300 μmを下回る土壌粒子について,その磁着量が最大化する条件を求めた。次に,磁力線別後の土壌に対して電気炉を用いて加熱処理を行い,模擬土壌中の安定セシウムの変化量を求めた。土壌からのセシウム分離の効果は,土壌種の違いにも左右されるため特定することは困難であるが,約600℃~800℃で吸着しているセシウムを熱分離可能なことが分かった。今後,電子顕微鏡を使い,土壌表面の観察など行いたいと考えている。 また,実汚染土壌の処理に向けて除染現場との調整も進めている。さらに,大手ゼネコンやエンジニアリングメーカーとの情報交換も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
実汚染土壌での試験(担当:三苫):前年度得られた最適条件で,実汚染土壌を用いた試験を行う。現在,商社,装置開発メーカー(エンジニアリング会社),Ca供給会社,及び粉砕機製造メーカーから協力の打診があり,各役割分担について大学知財部で整理する。また,別途,磁選部分(←熱分離を想定していない薬剤)の大型化についてはJST A-STEP復興支援枠に採択され,現地試験も進めている。企業参画も図り被災地での実証試験を行う(既に被災地の自治体とも接触している)。 長期安定性に関する研究(担当:三苫,奥田):(1)上記最適条件にて得られた固化物に対して微細粉砕(2mmアンダー)を施し,粉砕物の溶出試験及び耐薬品性試験を行う。サンプルは初期試験(2年前~現在)で調製したものを利用する。(2)上記にて得られた粉砕物に対して,長時間雨水に曝された場合の予測を行う。溶出水中のイオン分析を行うとともに,粉砕固化物の表面分析を電子顕微鏡で行い,表面の化学組成変化を確認する。また,本法で処理した固化物表面は,処理後長時間経過するに従い“漆喰の固化プロセス”と同様の過程を経て,表面が固化すると予想される。そのため,ナノ領域での組成判別可能な表面観察(広島大,TEM-EDS等)を行い,表面変化の経時変化を追跡する。(3)既設の熱分析装置(DTG-60AH)を用い,熱による変性を確認する。(4)長期保管に耐えうる強度か確認のために得られた固化物に対して強度試験(外部分析)を行う。 応用研究(担当:三苫)PCBや重金属類との複合汚染した放射性Cs汚染土の処理についても検討する。検討方法は,当該研究者らのアメリカ化学会掲載論文Environ.Sci.Technol.2009に準じる。
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