研究実績の概要 |
希土類資源の安定供給策は国家規模での重要課題に位置付けられ、我が国独自の希土類回収技術の開発は喫緊の課題である。「湿式精錬技術」と「電解析出技術」の統合に向けて、平成27年度は湿式精錬における酸溶出、脱鉄処理に関する研究を主体的に実施した。 1)鉄族元素の選択的沈殿分離及び湿式精錬工程の確立 廃磁石から希土類水酸化物を生成させる改良型の湿式精錬工程は、前処理~酸溶出~脱鉄処理~水酸化物生成処理に基づいており、効率的に研究を遂行するため、共同研究先(DOWAエコシステム環境技術研究所)の協力の下で実施した。酸化磁粉:3.4kg,アミド酸:14.2Lを使用した酸溶出におけるネオジムと鉄の溶出率はNd:83.0%(13h)→92.0%(40.5h), Fe:0.98%(13h)→0.0%(40.5h)であった。脱鉄処理における鉄族元素の選択的な沈殿形成ではpH=4.9の最適条件で実施し、最終的に100.0%で鉄元素を完全に除去できた。 2)希土類種の選択溶出及び希土類水酸化物の結晶性・含水率評価に関する研究 項目1)に関わる重要な要素として、酸化磁粉の生成と選択的な希土類溶出に関する研究がある。XRD解析から酸化磁粉は大部分がFe2O3相,Fe3O4相,Nd2O3相であることが判明した。ここで、Feの溶出量低減の要因はFe2O3相の形成に基づいていることを確認できた。また、アミド酸中のFe2+,Fe3+,Nd3+の濃度を定量化し、Nd-H2O系,Fe-H2O系の電位-pH図を作製することで、Nd及びFeの溶出挙動を評価できた。次に、沈殿形成により生成した希土類水酸化物はXRD解析から非晶質であることが判明した。結晶性が低いほど酸媒体への溶解速度が速く、非晶質な希土類水酸化物により脱鉄処理が実現できた。また、生成直後の希土類水酸化物の含水率は50%以上であったが、真空乾燥処理により10%以下に低減できた。上記一連の研究から溶出率:90%以上の希土類選択溶出及び100.0%に及ぶ完全な脱鉄処理を実現できる湿式精錬工程を確立できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は「希土類錯体種の分光学的解析及び核生成挙動解析」に向けて、以下の研究を計画している。 1)「イオン液体電析」で最も核となる部分は希土類種に対する電解条件の設定であり、イオン液体中における希土類種の錯形成状態に対する分光学的解析は重要である。希土類種:Nd,Dyに限定した上で、錯形成状態の評価には紫外可視分光法とラマン分光法を併用して解析する。ここで、希土類元素に特有のhypersensitive peak(Nd:4I9/2→2G7/2, Dy:6H15/2→6F11/2)に着目し、f電子系列の希土類種に対しても配位子場理論を拡張した上で、中心金属と配位子の強度を分光化学系列から判断する。また、ラマン分光法ではfreeなTFSAアニオン(740cm-1)と金属配位したTFSAアニオン(751cm-1)では明確なラマンバンドの相違があり、濃度依存性から溶媒和数及び錯形成状態を電解工程と同じ加温条件下で解析する。 2)上記1)と並行して、基底関数が希土類種のような重元素にも対応でき、実際の原子軌道に近いSlater型の原子軌道を扱える密度汎関数プログラム「ADF」を利用して、希土類TFSA錯体:[Nd(cis-TFSA)5]2-,[Dy(cis-TFSA)5]2-の最安定化構造の評価と振動数解析を実施する。 3)「イオン液体電析」を行うための希土類種の核生成挙動の評価には電気化学的手法を活用する。核生成過程には同時核生成・逐次核生成の2種類の機構が存在し、電流密度(j)-時間(t)曲線の無次元解析[(j/jm)2 vs. t/tm]により、理論曲線と比較することで核生成機構を判断する。特に実際のイオン液体電析工程で重要となる設定電位を判断するため、核生成機構解析では過電圧に対する核生成機構の変化に着目して、その挙動を詳細に解析する。また、還元挙動の電流-電位曲線に対して半積分・半微分法を適用し、希土類錯体の拡散係数を評価する。
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