研究課題
大規模な自然災害は被災地周辺に有害な化学物質を流出させ、ヒトや生態系に重大な二次被害をもたらす。そこで本研究は、東日本大震災をモデルケースとして「震災後のPAHs汚染の経年変化と未来予測」、「重油燃焼実験による新規生成有害物質の高精度同定」、「被災地沿岸の生態影響評価」の3課題に取り組むことを目的とした。実験の結果、燃焼前後の大気試料で高分子PAH成分の濃度上昇が確認され、これらが燃焼により生成された可能性が示された。また、4環のBenzo[c]phenathrene (BcPhen)の存在が新たに確認された。BcPhenの新規生成に関する知見はこれまでに報告がなく、PAHsの発生源解析に有用な分子マーカーになる可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
実験結果の詳細について述べる。燃焼後の重油に発がん性が疑われるBaP, BaA, Chrysene (Chry) を含む高分子量PAHsの濃度増加が観察され、いずれも燃焼前の値に比べ2倍以上になった。また、燃焼によって生成することが知られているBaPと、そのメチル化体であるC1-Benzopyrenes/Perylene類 (C1-BPs/Pery) の濃度比が燃焼時間の経過に伴って大きく増加していた。さらに、A重油の燃焼大気中から、未燃焼のA重油やコントロールの大気試料からは検出されなかったBcPhenの存在が確認された。同様の結果は、木材やプラスチックの燃焼後大気試料や、実験Cの大規模な津波火災の影響を受けた気仙沼湾の底質試料でも認められた。そこで、燃焼および非燃焼地域で採取した底質中BcPhenとUS EPA 16 priority PAHsの濃度比 (BcPhen/(BcPhen+Σ16PAHs)) を調べたところ、津波火災や燃焼事例が確認された底質のBcPhen/(BcPhen+Σ16PAHs) は、非燃焼地域の値より有意に高かった。以上の結果は、BcPhenが燃焼時の新たな分子マーカーになり得る可能性を示している。
近年の研究で、BcPhenの水酸化体である3-Hydroxybenzo[c] phenanthreneに強い抗エストロゲン作用が報告された2)。また、BcPhenは国際がん研究機関による発がん性の評価において「グループ2B : ヒトに対する発がん性が疑われる」に分類されており3)、今後本物質の水生生物への蓄積や代謝形態を調べる必要がある。また、近い将来、日本は南海トラフを震源とする大地震と津波により、広域かつ甚大な被害の発生が予想されている。今後は、高濃度のPAHsを含む燃油火災の汚染リスクを詳細に評価し、この種の被害を最小限にするための国・自治体等による減災対策を進めるべきである。
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Archives of Environmental Contamination and Toxicology
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Ecotoxicology and Environmental Safety
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http://doi.org/10.1016/j.ecoenv.2014.09.032