研究課題
大規模自然災害による有害化学物質の環境負荷が懸念されている。本研究では、東日本大震災をモデルケースに複数の課題に取り組んでいるが、平成28年度は前年に引き続き「燃焼実験による新規生成有害物質の高精度同定」に焦点を当てて研究を行った。がれきを想定した木材やプラスチック片を室内で燃焼させ、燃焼残渣を採集後、それに含まれる化学物質を多次元分離型高分解能分析装置 (GCxGC HRMS)を用いて同定したところ、膨大な数の化学物質の存在が確認された。また、naphthaleneの標準品を燃焼したところ、燃焼大気中からアルキル化体を含む多様な同族体が検出された、2環から3~5環のPAHsが合成された可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
木材やプラスチックの燃焼残渣を有機溶媒で抽出・前処理後、GCxGC-HRMSで成分同定を行った。その結果、高濃度のC1-Naphthalene類, C1-Phenanthrene/Anthracene類および C1, C2-Fluoranthene/Pyrene類が検出された。一般にアルキル化PAHは鉱物油中に多く含まれるため、これらは重油の環境流出を示すマーカーと位置付けられていたが、燃焼過程でも大量に生成されることが明らかになった。また、Naphthaleneの標品をバーナーで点火し、その燃焼大気を採取分析したところ、米国環境保護庁(US EPA)が指定する16種全てのPAHsが検出された。このことは、2環のnaphthaleneが燃焼過程で結合を繰り返し、より高分子のPAHsに変化した可能性を示しており、得られた知見は自然災害時のPAHs発生源を推定する基礎情報として有用と思われる。
Naphthaleneに比べて高分子のPeryleneを燃焼させて大気を採集し、生成物質の同定を試みる。本物質は5環であるため、燃焼過程でより高分子成分の生成が確認されると考えられると同時に、ベンゼン環の結合が切れて低分子PAH成分も新たに産生される可能性があり、この点の検証を行う。また、PAHsの親化合物を燃焼させてその生成物を確認する実験には。外部から侵入するブランクの影響が懸念される。このため、ナフタレンの重水素体を燃焼させて、より正確性の高い生成物の同定を試みる予定である。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件) 図書 (1件)
Archives of Environmental Contamination and Toxicology
巻: 70 ページ: 671-681
10.1007/s00244-015-0220-1
Environmental Science and Technology
巻: 50 ページ: 428-434
10.1021/acs.est.5b04826
巻: 50 ページ: 12779-12788
10.1021/acs.est.6b04046
巻: 50 ページ: 7163-7174
10.1021/acs.est.6b01090