研究課題/領域番号 |
15H02855
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
大住 克博 鳥取大学, 農学部, 教授 (60353611)
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研究分担者 |
横川 昌史 大阪市立自然史博物館, 学芸課, 学芸員 (30649794)
佐久間 大輔 大阪市立自然史博物館, 学芸課, 主任学芸員 (90291179)
小椋 純一 京都精華大学, 人文学部, 教授 (60141503)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 環境史 / 草原 / 里山林 / 薪炭 / コナラ林 / 草原種 |
研究実績の概要 |
草山⇒里山林化過程の時間・空間的復元を行うための基礎資料として当初予定していた、国有林の明治以降の森林数値情報の入手が困難であると判断されたため、他の情報による草山⇒里山林化過程の時間・空間的復元を試みた。広島県北西部の旧八幡村では、山地部の過半を占めていた草原が大正初期から急減し、第二次世界大戦後間には森林面積の1/5近くに減少していたことが、旧版地形図や民俗調査記録、地誌などから推定された。その背景には,牛馬頭数の大幅な減少とともに,薪炭用などの目的で草原の樹林化が進められたことが考えられた。一方、関東地方において、明治10年代に作成された迅測図と明治30年代に作成された地形図および植生図をもとに、近代初期の草原の変遷の復元を試みたところ、草原の減少は概して顕著ではなかった。大阪府下の明治中期以降の林業関連統計、全国山林原野入会慣行調査資料などを用いて、草山の利用、地域ごとの山の利用や管理の実態の違いを調査した。その結果、明治~昭和初期~戦後の近代里山の変遷に於いて、萌芽林や草山の増減を明らかにすることができた。 コナラの繁殖早熟性データについては、繁殖限界サイズの解析を終え論文化が進行中である。草原の植生史解析に有効な試料となる微粒炭のデータベース化のために、秋吉台で採取した草本約80種について,微粒炭標本プレパラートを作成した。栃木県日光市において放棄年代がわかっている元草原を調査し、草原性植物の欠落パターンを類型化した。その結果、放棄するとすぐに消える草原性植物と放棄後もしばらく生育できる草原性植物がいることを明らかにできた。阿蘇の草原再生試験地における、2009年から続けているモニタリング調査の結果より、この場所は景観的にはススキ草原に戻っているものの、草原性の植物種は少なく、管理を再開してもすぐには草原性植物が復活しない傾向がみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
草山⇒里山林化過程の時間・空間的復元を行うために、国有林の明治以降の森林数値情報の探査を昨年度に引きつづき国立公文書館、中部森林管理局、近畿中国森林管理局などで行ったが、2009年以降の国有林組織統廃合の中で予想以上に資料が廃棄されており、もはや入手が困難であると判断された。そのため、旧版地形図や民俗調査記録、地誌資料などを総合的に解析する手法に転換を図った。 草山の森林化プロセスや、森林化に伴う草原種の消長についての生態学的研究は順調であり、データの蓄積と解析が進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
草山⇒里山林化過程の時間・空間的復元について、入手できなかった国有林資料の代替として旧版地形図や民俗調査記録、地誌の情報解析に有効性が認められたため、この手法を利用して複数地域で草原の変遷の復元を行う。これらの結果を基に草山の里山林化の時期を考察する。また、明治中期以降の林業関連統計、入会調査資料などにより、社会経済的側面から、西日本における草山の変遷の背景説明を行う。 草山がなぜコナラ亜属の森林に移行したか、そのプロセスを生態学的に明らかにし、草原であったことが現在の里山林の構造に強く影響していることを示す。また一方で、森林化により草原種が衰退していく過程とそのパターンを整理する。 以上の結果を総合し、近世に里山域で卓越した草地の多くが、近代に入って森林化し里山林へと移行していった経過とメカニズムを提示する。
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