研究課題/領域番号 |
15H02858
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研究機関 | 滋賀県立琵琶湖博物館 |
研究代表者 |
大塚 泰介 滋賀県立琵琶湖博物館, その他部局等, 専門学芸員 (60344347)
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研究分担者 |
月井 雄二 法政大学, 自然科学センター, 教授 (20163777)
三橋 弘宗 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 講師 (50311486)
島野 智之 法政大学, 自然科学センター, 教授 (70355337)
富田 啓介 愛知学院大学, 教養部, 講師 (90573452)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 鉱質土壌湿原 / ポテンシャルマップ / 原生生物 / 有殻アメーバ / 珪藻 / 多変量ガウシアンロジット回帰 |
研究実績の概要 |
東海地方の湧水湿地分布調査を実施した。湿地の位置・面積・主な生育種・水質等の情報を取得・整理し、特徴を把握した。調査した湿地数は2015年度以前に実施したものを含めて約1450カ所に及んだ。近畿(滋賀・大阪・兵庫)、四国(愛媛・香川)、中国(山口・広島・岡山)でも湧水湿地の分布に関する資料収集と現地調査を実施した。20カ所以上の湿地で、位置・水質・主な生育種等の情報を得た。 広域スケールにおける湿地的な立地条件を判定するため、関西圏を解析範囲として、昨年度に整備した地理情報システムのデータベースを活用して、GISデータをもとにして、地下水涵養能力に関する空間評価と現状の湿地的な立地特性との対応関係の解析、水文地形学のパラメーターであるTWI(Topographic Wetness Index)を改良した指標開発を行った。また、湿地的な立地を抽出するために、兵庫県内の植生データベースを構築して、該当する湿地性の群落抽出を行った。 鉱質土壌湿原の珪藻群集の解析に用いる予定の「多変量ガウシアンロジット回帰」を、水田珪藻のデータセットに適用し、その効用を確かめるとともに、いくつかの問題点を確認した。 大多数の原生生物は、泥炭湿原と鉱質土壌湿原に共通してみられるが、鉱質土壌湿原でしかみられない種がいくつか認められた。同様の傾向は別途研究を進めている珪藻についても認められた。また、段差のある岩石段丘(これは硬質土壌湿原の特殊例としてとらえることができる)にも多様な原生生物が生息していることが判明しつつある。一方、共生藻をもつラッパムシの一種 Stentor pyriformis は高地の湿原にのみ生息し、極度の貧栄養状態(電気伝導度 10μS/cm前後)で増殖することを発見した。 鉱質土壌湿原から得られる有殻アメーバの群集を高層湿原のそれと比較して特徴を考察し、論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体としてはおおむね順調であるが、代表者および分担者の一部で、所属機関の研究以外の業務分担や学会用務が急増するなどしており、これが研究を滞らせる一因となっている。 湿地の現地調査は、悉皆的調査を目指す東海地方ではかなり進んだ。概要を把握する他地域に関し、四国地方はほぼ調査を終え、近畿・中国地方においても調査が進みつつある。これらの地域ではポテンシャルマップに必要な基礎情報が得られる目途がついた。また、関西圏における地下水涵養能力と既存の湿地性植生との対応関係について集計し、TWI(Topographic Wetness Index)について、開空度と流域面積の重みを補正改良した指標を作成した。ただしその両者を統合したポテンシャルマップの作成には着手できていない。 微生物相の研究については、「原生生物情報サーバ」へのデータ蓄積が確実に進んでいる。また、珪藻、有殻アメーバなどについて、本研究の予備研究段階で採集した試料に基づく報告を出版し、あるいは執筆中である。ただし本研究で得られた試料については多くが未だ分析中である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の課題は、それぞれの研究者の研究成果をもちよって考察を深め、研究成果を発表することである。 引き続き、湿地の分布調査(資料収取および現地調査)を実施し、東海地方の悉皆的な湿地分布調査は概ね完了させる。近畿地方と中国地方における現地踏査を集中的に実施、湿地の分布概要と環境の特徴を把握する。九州地方およびそれ以外の地域における湧水湿地の情報を収集する。また、湿地調査のデータと新たに構築した指標群を用いて、湿性植生群落の立地解析を行い、地形データから湿地特性を明らかにする新たな方法論を論文として取りまとめる。 原生生物調査については、調査地域を東海地方全域、さらには日本全域へと広げていく。これにより原生生物相に関して地域ごとの違い、および硬質土壌湿原と泥炭湿原の違いを明らかにしていく。また、なるべく多くの湿原で水質の測定及び分析を行い、原生生物相との対応を明らかにする。有殻アメーバおよび珪藻については、引き続き鉱質土壌湿原の群集について調査を行い、成立過程を明らかにする。珪藻についてはすでに多くの水域からの試料を得ているので、すでに採集した試料の分析を優先する。
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