研究課題
肥満を基盤とする生活習慣病の発症を予防・改善することは、健康長寿社会を実現するために重要である。PPARγやヒストンメチル化酵素SETDB1は互いに影響を及ぼしながら、脂肪細胞の分化において重要な役割を果たす。これまでに我々は、SETDB1が細胞質に多く存在すること、プロテオーム解析によりSETDB1タンパク質がリン酸化を受けることを明らかにしてきた。これらから、SETDB1のリン酸化の状態が細胞内局在に影響を与える可能性を考えた。そこで、種々のリン酸化酵素阻害剤を細胞に処理した時のSETDB1の局在を解析した。その結果、いずれの阻害剤で処理してもSETDB1は細胞質に多く局在した。次に、SETDB1が細胞質に多く存在する原因として、SETDB1が核から細胞質に排出される可能性やプロテアソームにより分解を受ける可能性を考えた。そこで、それら阻害剤を用いて解析した結果、SETDB1は核内から細胞質に排出されること、核内においてプロテアソームにより分解を受けること、その結果としてSETDB1が細胞質に多く存在することが示された。PPARγもある種のシグナルにより核内から細胞質に排出されることから、これら局在変化の関連性を解析することが新たな活性制御機構の解明に繋がると考えられる。また我々は、PPARの転写活性化能の評価系を独自に開発してきた。そこで、構築したスクリーニング系を用いて植物抽出液からPPARの転写活性を制御する成分を探索した。その結果、PPARの転写活性を上昇させる植物抽出液をいくつか得ることができ、その抽出液から活性成分を単離した。単離した成分を細胞に処理した結果、PPARの標的遺伝子ANGPTL4の発現量が上昇した。従って、本成分を含む植物抽出液が、生活習慣病を予防・治療できる機能性食品や薬剤の開発に繋がる可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題では、生活習慣病の予防・治療の標的分子である核内受容体PPARの活性制御機構を相互作用因子や翻訳後修飾などに着目して解明し、新たな活性化剤を開発することでそれら疾患の予防・治療方法の研究基盤を確立することを目的とする。脂肪細胞の分化においてPPARγと共に機能するヒストンメチル化酵素SETDB1に関して、その局在の制御機構について解析した。種々の酵素阻害剤を用いて解析した結果、SETDB1は核内から細胞質に排出されること、また、核内においてプロテアソオームにより分解を受けることを明らかにした。脂肪細胞の分化においては、SETDB1がヒストンH3の9番目のリジンをメチル化することで分化を抑制していると考えられている。今回明らかにしたSETDB1の局在制御のメカニズムは、脂肪細胞の分化の仕組みの解明に繋がる可能性があり、興味深い成果であると考えられる。一方、生活習慣病の予防・治療方法を確立するためには、PPARの活性を制御できる分子の開発が重要である。そこで、独自に構築したスクリーニング系を用いて植物抽出液を評価した結果、PPARの活性を向上させる抽出液が得られ、その主成分を同定した。本成分を含む植物抽出液は、生活習慣病の予防・治療のための食品や医薬品に繋がる可能性があり、非常に意義深いと考えられる。このように本研究は、概ね順調に進展していると考えられる。
平成27年度には、SETDB1の局在制御機構を明らかにすると共に、SETDB1の翻訳後修飾が活性に影響を及ぼすという予備的データも得た。しかしながら、その詳細な分子メカニズムは不明のままである。そこで平成28年度では、SETDB1の翻訳後修飾による活性制御機構についての研究を進める。また、他の転写共役因子等の関連因子についても同様に研究を進める。また、引き続きPPARの活性を制御する低分子の探索、翻訳後修飾の解明、相互作用分子の同定についての解析も進める。
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Biochem Biophys Res Commun
巻: 465 ページ: 725-731
doi:10.1016/j.bbrc.2015.08.065
http://www.phs.osaka-u.ac.jp/homepage/b018/index.html