研究課題
HDLの新生を司る膜蛋白質ABCA1の活性調節について、タンパク質分解による翻訳後制御機構の詳細を明らかにした。1)ABCA1は膜上でcaveolin-1と相互作用することでendocytosisが促進されその後のcalpainによる分解が増加する。疎水性の強い高コレステロール血症治療薬probucolはこの相互作用に干渉しABCA1分解を抑制するが、ABCA1の産生活性も阻害する。一方、probucolの酸化物であるspiroquinoneとdiphenoquinoneは同じ機序でABCA1の分解を抑制するが活性を阻害せず、結果としてHDL産生を高める。2)高血糖を伴う糖尿病は低HDL血症を合併する。この機序について、肝細胞を高血糖に曝すことでHDL産生が抑制されることを見いだした。この時細胞ABCA1は増加しているが、細胞表面のABCA1が低下しており、分解速度も低下していることが分かった。高血糖はHDL産生の主要な場である肝細胞において細胞表面へのABCA1の移送活性に障害があることが低HDL血症の原因であることが分かった。また、血漿HDLの構造と機能の関連を明らかにした。日本人317名の血漿apoA-Iについて、apoA-IIと相互作用している分子としていない分子に分けて測定、これをapoA-IIを含むHDLと含まないHDLの指標として解析した。その結果、1)apoA-IIを含むHDLは血漿HDL濃度に関わらず一定であり、HDL濃度の変化はapoA-IIを含まないHDLの増減にのみ依存する、2)apoA-IIをふくむHDLは、apoA-Iを2分子apoA-IIを1分子含む安定な粒子である、ことが分かった。
2: おおむね順調に進展している
この一年は、研究成果の発表(学会発表、論文発表)など、概ね予定通りの成果を得ていると考える。研究成果に記した項目は、動脈硬化進展に対するHDLの産生とその機能を明らかにするために重要な成果である。
(1)中部大学に於いて同定された生物活性機能分子の特異的効果について検討する。(2)持続的高血糖とABCA1分解制御機構。AGE蛋白質のABCA1分解促進に関わる受容体とシグナルの同定をさらに進め、標的となる分解系の同定を確定する。(3)人工甘味料やAGEによるApoA-Iの化学修飾と立体構造変化を確認する。(4)無機栄養因子によるABCA1活性の制御。二価三価のイオンによるABCA1の分解抑制とその標的経路とHDL新生の促進を確認する。Ca++によるcalmodulin/ABCA1結合を介したABCA1の分解抑制の機序を解明する。(4)HDLの長期上昇傾向に着いて、HDLの構造の bioinformatic解析から、変動因子を確定する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 3件)
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