研究課題
HDL新生を司る膜蛋白質ABCA1の栄養学的制御について、以下の新規知見を得た。1)糖尿病の病態における低HDL血症発生の機序について、高血糖に曝される肝細胞では細胞内で合成されたABCA1が細胞表面に到達することが阻害されて細胞内に蓄積し、その結果細胞表面のABCA1の減少と見かけ上の分解抑制が認められ、HDL産生の減少が細胞生物学レベルと動物実験で確かめられた。2)糖尿病における高血糖により血液中に生じる高度糖化蛋白質(AGE)がABCA1のubiquitin系による分解を促進し、ABCA1の減少とHDL産生の低下をもたらすことを示した。3)血漿HDLのapoA-II含有の有無の亜分画(LpAI:AIIとLpAI)の機能解析を行い、後者がHDLの抗動脈作用を担うのに対し、前者は動脈効果促進因子との正の相関が認められた。4)日本人におけるHDLの長期上昇傾向がさらに続いてることを明らかにし、我が国の近年の新たな栄養学的変化との関連を検討する必要性を示した。5)ABCA1発現制御の栄養学的因子として二価の陽イオンと柑橘類果皮の生理活性物質について検討している。前者はcalmodulinを介した分解抑制機序に、後者はPPAR-LXR系を介した転写制御により、ABCA1の発現増加をもたらす知見を得ている。
2: おおむね順調に進展している
ABCA1の栄養学的活性制御を介した血漿HDL濃度の調節について具体的病態との関連を明らかにし、動脈硬化症発症進展のリスクの栄養学的分子機構の解明に重要な進展があったと考える。その内容のいくつかは論文として公表することが出来た。研究の進展は概ね順調である。
1)二価イオンなどの無機栄養因子や食品中の生理活性物質のコレステロール代謝制御への関与の分子機構を解明し、これらの摂取による動脈硬化症予防の食生活の処方の科学的基礎を明らかにする。2)糖尿病の病態におけるHDL低下の分子機構についてさらに明らかにし、これを予防する手立てを解明する。3)我が国の最近の栄養摂取の急激な変化と血漿HDLの長期上昇傾向について、疫学的・分子栄養学的双方からの解明を急ぐ。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 4件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件)
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