研究課題/領域番号 |
15H02904
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
森田 直樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 上級主任研究員 (60371085)
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研究分担者 |
野田 なつみ 北海道大学, 保健科学研究院, 助教 (30624358) [辞退]
芳賀 早苗 北海道大学, 保健科学研究院, 特任講師 (60706505)
酒井 佳夫 金沢大学, 医学系, 准教授 (80401925)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH) / 脂肪肝 / マーカー分子 / メタボリック症候群 |
研究実績の概要 |
我が国ではメタボリック症候群の増加とともに、脂肪肝に加え、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH: Non-Alcoholic Steato-Hepatitis)患者の増加が問題視されている。本研究は、NASH病態について、マーカー分子の臨床病態学的な意義・重要性を詳細に検討し、同時に脂肪肝からNASH病態への移行を阻止するために有効な機能性食品のスクリーニング・システム(細胞・小動物モデルによる)を開発することを目的としている。 我々のこれまでの研究で、脂肪肝の慢性傷害とNASH進行に重要な役割を果たす分子候補をいくつか同定している。本年度はこれらの分子について、1.細胞レベルでの分子機能アッセイ系の構築のための研究を行った。また、2.臨床検体をもちいた臨床病態学的検討も進めた。 1.アッセイ系構築のために以下の分子および分子機能を反映するプローブ作製・細胞レベルでの機能確認を進めた;1)プログラム細胞死、2)小胞体ストレス・Akt活性化、3)p62/SQSTM1遺伝子発現。1)各細胞死に関与する分子機能を細胞内で観察するためのプローブであり、細胞内での機能性が確認できた。2)発光反応に関与するルシフェラーゼをもちい、分子が活性化した際に発光するような構造で作製し、細胞レベルにてその機能性を確認した。3)遺伝子発現を観察するレポータープローブを作製し、一過性発現による細胞実験を行った。2)および3)は、充分な反応性が得られなかったことからプローブの構造から見直した。今後さらに、デザインおよびプローブ測定方法について再検討が必要である。 2.臨床病態学的検討は、外来フォローアップされている患者検体を本実験計画に基づいたグルーピングにより選別を行った。さらに肝癌の影響も考慮して検討するため、肝癌疾患サンプルの選択を追加準備した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は主に、1.アッセイ系構築のための分子および分子機能反映プローブの作製と細胞レベルでの機能確認、および2.臨床検体をもちいた臨床病態学的検討、以上2つのテーマから本研究を進めた。 1は機能性食品のスクリーニング・システムを構築することを目指し、まず初年度はその基盤となる分子および分子機能反映プローブの作製と細胞レベルでの機能確認を進めた。各プローブは分子の遺伝子発現及び機能を生きた細胞・個体で観察できるように、ルシフェリン/ルシフェラーゼの発光システムを用いている。細胞レベルでのプローブ機能確認の結果、一部、想定通りの機能性を示さないものがあった。これらについては、研究期間を延長して、再度プローブの構造検討段階で再検討を行い反応性の良いプローブ作製を目指した。構造を熟考し作製するプローブではあるが、実際にプローブとして機能するかは細胞実験で詳細に判断するしか手段がない。したがって、当初の計画通りにプローブ検討が進んでいるとは評価できないが、本段階はプローブ開発過程では想定内で、不可避の課題であった。 2.のテーマについては、臨床検体をもちいた臨床病態学的検討の準備及び調査を進めた。当初の計画において、臨床研究のプレリミナリー実験としてあげた項目ごとに臨床検体をその症例を調査しグルーピングした。さらに、NASH病態は進行性で、単純性の脂肪肝とは異なり肝の傷害と炎症が持続し最終的に肝硬変から肝癌に至ると考えられているため、今回、肝癌疾患サンプルの追加を選択した。以上のとおり、臨床研究のプレリミナリー実験への準備はグルーピングの追加変更が生じたが、おおむね順調に進捗していると評価した。 本研究は以上の理由から、研究計画に基づいて概ね予定通り進行しているが、一部段階でやや遅れが生じていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題遂行のために、まず本年度の研究で挙げられた課題から順に取り掛かる。 まず、機能性食品のスクリーニングシステム構築のための分子および分子機能反映プローブシステムの確立を目指す。そのために、これまでの成果で一部その反応性の不足しているプローブについて、その構造および測定方法などを再考慮して完成を目指す。細胞レベルでの機能性が確認できたプローブは、細胞へ安定導入を行い、スクリーニングシステムへの応用研究段階進む計画である。また、これまでの研究で準備及び調査を進めた臨床研究については、臨床検体をもちいて各分子の各症例における特異性、また各病態に対する応用性の検討を進める。これをプレリミナリーな研究として、マーカー分子の意義・重要性を評価する。 次段階の研究推進方策は、前述の臨床研究で着目する候補分子の発現について、培地中、血中測定システム開発に向けた研究である。これはターゲット分子の簡便な検査を可能とし、今後の臨床研究における臨床検体の選別が可能となる。 一方、機能性食品のスクリーニングシステム構築のための研究は、その対象として病態モデル細胞および疾患モデル動物を作製、利用して研究を進める計画である。これらのモデルを用いて、各種プローブの応用研究、マーカー分子の意義・重要性の検討を行い、スクリーニングシステム開発に役立てる。また、この細胞・動物モデルは、病態のメカニズム解析にも利用し、病態に対する分子メカニズムの解析を行う。 以上のとおり、本研究が病態、疾患の予防・診断・治療の多方面に役立てる成果をもたらすように方策を立てている。
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