これまでの研究によりマウスのアルコール性脂肪肝がレスベラトロールの同時投与により軽減され、この過程には核内受容体CARに依存した遺伝子制御が関与していることを明らかにしている。本研究では、アルコール性脂肪肝を誘導した父マウスと通常の母マウスを交配した仔は通常両親の仔に較べて血中中性脂肪値が高く、肝トランスクリプトームに差が見られることを見いだした。さらにこの差異が父親へのレスベラトロールの同時投与で解消されることを確かめた。この現象のエピジェネティックな要因を探るために、父精子DNAと仔肝臓DNAのシトシンメチル化をメチル化DNA結合タンパク精製シーケンシングにより解析した。父精子DNAと仔肝臓DNAそれぞれにおいて、対照群(C群)、エタノール群(E群)、エタノール+レスベラトロール群(ER群)との間にメチル化状態の異なる領域(DMR)が観察され、一部のDMRは変動パターンが親子で一致していた。これらのDMRと仔肝臓で発現変動した遺伝子の転写開始点(TSS)との位置関係を解析し、一部のDMRがTSS+-5kbp以内に存在することを見出した。H29年度では、シトシンメチル化以外の重要なエピジェネティックな情報であるヒストン修飾について、染色体免疫沈降による解析を進めた。このため新たに野生型とCAR欠損マウスを父とした二世代実験を行い、染色体免疫沈降のためのサンプルを得た。まず、父世代の精巣、精巣上体内精子、精子のH3ヒストン修飾k27acを比較し、精巣上体内精子と精子の類似性が高いことを確かめた。次に、父精子と仔肝臓の染色体免疫沈降シーケンシングをH3ヒストン修飾k27ac、k27me3、k4me1、k4me3について行い、特に仔肝臓で発現変動した遺伝子のTSS+-5kbp以内に注目して解析を行った。さらに発現変動のパターン、DMRとの相関性の解析を行っている。
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