体内のガングリオシド代謝関連遺伝子の発現量へのケトン食摂取の影響について、ケトン食摂取モデルマウスにてガングリオシドの発現誘導が起こる肝臓を用いて網羅的遺伝子発現解析により調べたところ、有意に変化している遺伝子を数種同定した。中でも、明らかな遺伝子発現量の変化としてガングリオシドの生合成に関わるSt3gal2の増加、分解に関わるGm2aの低下が起きていた。Gm2aは大脳皮質及び海馬においても有意に低下していることがリアルタイムRT-PCR解析により明らかとなったが、その変化量が小さいためかガングリオシドの発現への影響はなかった。Gm2aの欠損マウスではガングリオシドが小脳に蓄積することが知られていたため、小脳のガングリオシドの発現量を調べたところ、シアル酸を多く有する複合型のガングリオシドの発現量に増加傾向が見られた。これらはSt3gal2により合成されるガングリオシドでもあることから、ケトン食の摂取がGm2aとSt3gal2の遺伝子転写制御を作用点として、小脳のガングリオシドの発現増加を誘導したと考えられる。 一方、組織におけるガングリオシドの発現増加が、血清中のガングリオシドの量的変化と相関していることを見出した。また血清中の糖タンパク質を合成する主要組織の肝臓では、ケトン食の摂取により糖タンパク質の糖鎖合成も影響を受けていることがわかった。このようなガングリオシドや糖タンパク質の血清中での量的変化・糖鎖構造変化は、ケトン食の中枢神経組織への作用を間接的に評価できるバイオマーカーとしての活用が期待される。そこで、これらの評価系の確立に向けて、必要な材料となる抗糖鎖抗体の開発を進めた。 他方、ケトン食摂取モデルマウスの肝臓では脂肪肝が発症しており、中性脂肪の放出に異常があることを突き止めた。この病態にはVLDL受容体とレプチンが関わることも明らかとした。
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