研究課題/領域番号 |
15H02908
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研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
内山 哲治 宮城教育大学, 教育学部, 教授 (10323784)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 経験帰納的学習 / 課題解決型学習 / アクティブ・ラーニング / 暗黙知 / 無意識 / モチベーション / 課題研究 / 探究活動 |
研究実績の概要 |
1 理論:前年度の研究で企業内教育と経験帰納的学習による教育を比較し,経験帰納的学習は企業で行われているOJTやOff-JTと異なるタイプであることがわかった。また,ここでどのタイプにせよモチベーションが重要であることが浮き彫りになった。そこで,今年度は企業における動機付けを検討した。われわれが注目したのは,1960年代のA. H. マズローや1980年代のE. L. デシといったモチベーション理論ではなく,1960年代ではあるが従業員(会計士と技術者など)を調査したF. ハーズバーグのモチベーション理論(二要因論)である。これは,職場での出来事を仕事に対して「満足を与える要因(満足要因・動機付け要因)」と「不満足を与える要因(衛生要因)」に分け,特に,衛生要因がないと不満は高まるが,充分充たされても満足を高めることは出来ない要因の存在を明確にしたものである。われわれは,学校教育の現場で満足要因と衛生要因を挙げ,まず最低限,衛生要因の不足がない状態を学校現場に作ることが重要であることを導いた。さらに,満足要因を充たし続けるサイクルとして,よく用いられるPDCA「計画→実行→評価→改善」サイクルではなく,「機会→支援→評価→承認→報酬」サイクルが有効であると結論した(日本物理学会第72回年次大会で発表)。 2 自然現象の抽出:われわれは教科書既存の内容を検討するのではなく,日常接している現象を分解することによって教科内容にリンクさせることを行っている。今回,特に「緑」に着目し,最終的には光のスペクトルや生物の錐体細胞などに展開することに成功した(上記次大会で発表)。 3 実践:「「緑」ってなんだ」というテーマで,本学大学生(高校で物理未履修者および物理不得手者),宮城県仙台向山高等学校および仙台第三高等学校で,簡単な実験の経験を帰納させることで探究活動させる実践を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
経験帰納的学習の基本概念を構築し,学校教育および企業内教育での立ち位置が分かってきた。現在,ビジネスモデル(特にモチベーションサイクル)を基に経験帰納的学習の授業展開方法を探る段階にある。また,拡張・展開を行っている段階で,経験帰納的学習は高等学校における課題研究・探究活動等の教育指導に有効であることがわかってきた。これら課題研究・探究活動は,学校教育現場で現職教員が非常に苦手とする領域である。研究代表者は,教員免許状更新講習,宮城県教委がJST事業で行っている中高生のための科学研究実践活動推進プログラム研究指導力向上型『知る術~「なぜ」を紡いで「知りたい」を育てるみやぎメソッド~』で課題研究の指導法や,高等学校の課題研究発表会で助言者・審査員をする機会が多くある。そこで,この機に経験帰納的学習に基づく指導法を教授しても,ほとんどの現職教員自らは課題に試行錯誤することを厭い,確実にうまくいく指導法・マニュアルだけを欲しがる(覚える)ことがわかってきた。 自然現象の抽出に関しては,実践できる程度の内容として,光学分野のスペクトル分解に発展させる内容(「緑」ってなんだ),光学分野の回折,熱力学分野の状態変化や電磁気分野の電気伝導・磁気特性に展開できる酸化物高温超伝導体の急速作製と特性評価,力学分野としては部活動の力・エネルギーに基づいた説明等,作成してきた。
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今後の研究の推進方策 |
1 理論班:二要因論における「満足要因」と「衛生要因」を学校教育に当てはめ整理する。また,「機会→支援→評価→承認→報酬」サイクルを学校教育に当てはめ,教育現場でのサイクルを構築する。さらに,経験帰納的学習と融和させ,経験帰納的学習を教育現場で活用するためのサイクルを構築する。 2 経験帰納班:これまで同様,本学習形態の核となる日常生活で無意識のうちに認識している事象(学習課題)を挙げて検討していく。当該研究室の卒業生・修了生を中心とした小中高校教員から,教育現場の現状および躓きやすい課題を挙げもらうが,特に,フレッシュな学部学生に調査もし,研究室内を中心に検討したい。経験の活用としては,教育現場での物理実験が2つに展開できると考えている。1つ目は学習内容を確認するための教書にある実験であり,2つ目は,日常生活で「あれっ?」と思うような不思議な現象を解明するための追究実験である。前者に対しては,「「緑」ってなんだ」で行ったように,実験をした帰結が教科書の内容に整合する形で考えたい。後者に関しては,高校の課題研究の指導等で利用した。また,教科の枠を超えたところで,経験を活用することを行う。具体的には,言語と物理の関係である。われわれは,文法と物理公式が対応関係にあると考えている。つまり,日常言語の理論的抽出が文法であり,一方,自然現象の理論的抽出が公式であるからである。この関係を詳らかにしていきたいと考えている。 3 教材製作班:ここでは現職教員よりも,当該研究室の大学院生・学部生を中心に思考錯誤することによって,学生の考える力の育成も図りたい。 4 実践班:昨年度,いくつかの高校で実践が出来たが,今年度も現職教員の異動が多く,現時点で学校現場との調整が付いていない。しかしながら,大学の授業や現職教員指導の場面が多いので,現職教員のへの教育を含めて実践していく予定である。
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