研究課題/領域番号 |
15H02939
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
稲葉 光行 立命館大学, 政策科学部, 教授 (80309096)
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研究分担者 |
細井 浩一 立命館大学, 映像学部, 教授 (00268145)
上村 雅之 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 教授 (20388086)
THAWONMAS Ruck 立命館大学, 情報理工学部, 教授 (50320122)
中村 彰憲 立命館大学, 映像学部, 教授 (70367134)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 状況学習 / 協調学習 / シリアスゲーム / メタバース / 日本文化 |
研究実績の概要 |
本研究の目的の1点目は、ネット上の仮想3次元空間(メタバース)を用いて、特に留学生が日本の生活文化・習慣を効率よく学習できる環境を提供することである。2点目は、仮想的な身体(アバター)の特性を生かし、Web環境では困難であった状況学習の支援モデルを実用化することである。3点目は、学習者同士の対話や協調作業による新しい学習デザインのモデルを構築することである。 本研究これまで、メタバースのプラットフォームとして最も普及しているSecond Life(SL)を用いて、仮想博物館、仮想神社、東アジアの食に関する仮想食堂などの構築に取り組んできた。2018年度は、日本文化と西洋文化が混在・融合した環境の中で、多文化的な価値観や宗教観を学ぶための学習環境の構築に取り組んだ。具体的には、禁教令が出された後も信仰を数百年に渡って継承してきた「隠れキリシタン(あるいは潜伏キリシタン)」の文化を題材とした学習環境を構築した。長い年月のうちに教義が変化し、仏教、神道、民間信仰などと融合した独特の宗教文化として維持・継承された隠れキリシタンの文化は、日本文化と西洋文化の交流・融合について理解し、多文化的な視点を得る上で貴重な学習素材である。 我々はまず、大阪府北部に伝わるキリシタン文化の伝承や遺跡を調査した。そしてキリスト教文化と日本の宗教や価値観が融合した、さまざまな遺物や風習について学ぶための環境をメタバース内に構築した。さらに、隠れキリシタン文化のみならず、多様な宗教・価値観を学ぶためのシリアスゲームを開発した。そしてこれらを用いて、日本人学生とアジアからの留学性が参加する協調的シリアスゲームの実験を行った。実験後のデブリーフィングでは、メタバースを媒介とし協力しながらクイズに答える枠組みが、異なる文化的背景を持つ学習者同士の文化的・宗教的価値観の共有や相互理解を高める可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、日本文化を含む多様な文化に関する学習コンテンツをメタバース内に構築し、それらを媒介とした学習ゲームや、学習者同士の対話に基づく協調学習の実験を繰り返してきた。その結果、主に以下の3点の成果が見出されてきている。 1点目は、仮想空間を媒介とした「協調型シリアスゲーム」という学習モデルの考案である。これは、古参者的学習者(日本人学生/長期留学生)と新参者的学習者(最近日本に来た留学生)がペアとなり、対話を通して共同でクイズを解くことで、楽しみながら文化学習ができることを目指したものである。 2点目は、メタバース内での「状況学習」に加え、仮想空間と現実空間での対話を組み合わせた「ハイブリッドなコミュニケーションチャネルによる協調学習」の有効性に関する示唆である。一般的なWeb環境での学習やe-ラーニングにおいては、ネット上のコミュニケーションのみが想定される場合が多いが、ハイブリッドなコミュニケーションチャネルの使用を推奨することで、クイズや学習コンテンツに関連する自由な対話から、学習コンテツに含まれていない文化的な知識共有や、自文化・他文化についての新たな解釈や深い理解が創発的に作り出されることが観察された。 3点目は、仮想空間の構築やクイズの考案という「デザインベース学習」の有効性への示唆である。これまでに構築した学習環境は、プロジェクトに参加する大学院生(主にアジア各国からの留学生)がデザインし制作してきた。彼らは多様な文献やネット上のコンテンツを参照し、日本文化を含む多様な文化の学習のためのクイズを考案し、学習環境を実装した。また学習実験では古参者的存在として参加し、新参者的学習者に自国の文化との比較をしながら日本文化について解説してきた。つまり自ら学習環境をデザインし、状況に適した解説をすることで、日本文化や自国の文化を含む多文化への理解を深めてきた。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、研究の最終段階として、本研究がこれまでの活動で見い出してきた成果、つまり、(1)協調型シリアスゲーム、(2)ハイブリッドなコミュニケーションチャネルによる協調学習、(3)デザインベース学習、という3つの概念の有効性と限界についての検証に取り組む。 そのための1つの視点は、「学習科学の視点からの理論的検討」である。本研究のアプローチは、状況学習、実践共同体、あるいはジグゾー学習といった学習科学の諸理論がその背景にあるが、メタバースを媒介とした学習実験から得られた知見は、既存の理論的枠組みでは十分に説明できない部分もある。最終年度は、学習科学の既存理論との比較検討を行うことで、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などが普及する現代ならではの学習理論の可能性を検討する。 本研究が取り組む2つ目の視点は、「学習環境・モデルの実証実験」である。これまでは、研究代表者が所属する大学で学ぶ日本人学生と留学生を中心に学習実験を行ってきたが、より広い対象者(例えば、初等中等教育機関で学ぶ生徒や一般市民)が参加する形で、日本の伝統文化及び生活文化の学習実験を行い、本研究が構築してきた学習環境や学習モデルの有効性を検討する作業に取り組む予定である。 本研究が取り組む3つ目の視点は、「システマティックな手法による学習モデルの有効性の検証」である。これまでの研究では、新たな学習支援環境や学習モデルの生成を主な目的としていたため、質的な分析手法(ビデオエスノグラフィーや、デブリーフィングによるフォーカスグループ的な手法)を用いた検討を行ってきたが、研究の最終年度においては、学習に対する動機付けや新たな文化的知識の獲得などに関わる量的指標を用いた検証に取り組む予定である。さらに、学習過程に対して、質的・量的アプローチを統合した混合研究法のアプローチによる検証・検討を試みる。
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