研究課題/領域番号 |
15H02943
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
脇田 久伸 佐賀大学, シンクロトロン光応用研究センター, 研究員 (50078581)
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研究分担者 |
河野 一隆 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部, 室長 (10416555)
上野 淳也 別府大学, 文学部, 准教授 (10550494)
横山 拓史 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20136419)
栗崎 敏 福岡大学, 理学部, 准教授 (20268973)
平尾 良光 別府大学, 文学部, 客員教授 (40082812)
中西 哲也 九州大学, 総合研究博物館, 准教授 (50315115)
桃崎 祐輔 福岡大学, 人文学部, 教授 (60323218)
長野 暹 佐賀大学, 経済学部, 客員研究員 (80039221)
沼子 千弥 千葉大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80284280)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 1幕末明治期 / 2金属遺物 / 3史資料分析 / 4自然科学分析 / 5大砲砲弾 / 6蛍光X線分析 / 7ICP-MS / 8同位体分析 |
研究実績の概要 |
本研究は在来の技術・経験(在来知)が日本の近代化へ及ぼした具体的影響を文系と理系融合の総合研究で金属遺物について探ることである。 まず、考古・文化財系の桃崎・河野・平尾・中西・上野のうち、桃崎は藩政期の火薬製造知識を調査するため黒田藩の合薬(火薬)製造所の調査を行い、輸入硝石から国産塩硝への移転(在来知化)について調査した。河野は古代を中心とする金属製品の重要なコレクションを整理・編纂した。平尾・上野・中西は鉛同位体分析を念頭に置いて資料収集を行った。その結果、平尾は江戸時代の踏絵、西南戦争の鉄砲玉の収集を、上野は長崎出島の青銅製大砲の蛍光X線分析と鉛同位体分析ならびに鉛産地同定のため欧州の銅鉱山で資料収集を行った。中西は佐賀藩の三重津海軍所跡出土の銅板やリベット類および比較資料として開陽丸の銅板を収集した。一方、史学・自然科学系の長野・脇田・横山・沼子・栗崎は佐賀・出雲・盛岡南部・福岡の4地域に関連する幕末明治期の金属遺物について史資料分析と金属遺物収集を行った。特に大砲砲弾を中心として収集試料を行い、破壊できない試料については可搬型蛍光X線分析装置で含有元素の定量分析を行った。持ち帰り溶解可能な試料片についてはICP-MS分析法で希土類元素の定量分析を行った。一昨年までのランタノイド元素分析に加えイットリウムの定量分析も行い、指標元素探しを行った。砲弾に含有・付着した鉛の同位体分析を行い、鉛の産地同定を試みた。比較資料として出雲の砂鉄やたたら製鉄跡地の鉄塊、釜石産の古銭ならびに鹿児島尚古集成館所有の英式工作機械等の資料についても一連の分析を行った。これらの結果は主として27年10月に中国深センで開催した第5回在来知国際シンポジウムなどで招待講演し、論文や専門書として公刊した。研究班全体の会議を2回行い班員相互の研究を検討・評価し次年度の研究の方策を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
考古・文化財系の桃崎は黒田藩の合薬(火薬)製造所の調査より輸入硝石から国産塩硝への移転が軍事技術の在来知化と考えられるとした。河野は金属製品の重要なコレクション整理・編纂から鉄文化の位置づけをおこなえるとしそのことは九州の鉄文化の歴史的展開を評価するうえで重要であるとした。平尾・上野・中西は鉛同位体分析法を用いて含鉛金属遺物の原料産地を探る研究として、平尾は踏絵と西南戦争の鉄砲玉の収集から幕末明治期の輸入原料の原産地を探れるとし、上野は欧州銅鉱山での資料収集から出島の青銅製大砲の原料産地を探れるとし、中西は佐賀藩三重津海軍所跡地出土銅板やリベット類や開陽丸由来の銅板収集から三重津海軍所で使用された原料の原産地を探れるとして28年度の実験に繋げている。 一方、史学・自然科学系の長野・脇田・横山・沼子・栗崎は佐賀・出雲・盛岡南部・福岡の4地域に関連する幕末明治期の金属遺物、特に大砲砲弾を中心として収集を行った。現地で可搬型蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行い砲弾類は一部を除き鉄含有量は97%以上に達する純度を持つことが分かった。溶解可能な試料片でICP-MS分析法による希土類元素の定量分析を行ったところランタノイド元素の含有比分析から島根の砂鉄の含有比と類似する含有比を持つ砲弾もあることが分かった。指標元素探しのためランタノイド元素に加えイットリウムの定量分析も行い、ランタノイド元素の含有量比と異なる傾向を見出した。砲弾に含有・付着した鉛の同位体比分析から清水観音堂の砲弾に付着した鉛は国産品であることが分かった。これらの結果は主として27年10月に中国深センで開催した第5回在来知国際シンポジウムなどで招待講演し、論文や専門書として公刊した。以上の成果をもとに研究班全体の会議を2回行い班員相互の研究を検討・評価し次年度の研究の方策を検討し当初の目標をほぼ達成した。
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今後の研究の推進方策 |
桃崎は藩政期の火薬製造関連遺構・遺物調査を行う一方、アームストロング砲の探索を公文書館にての資料収集や各地砲台での資料収集で行い、自然科学探索の資料を集める。河野は装飾古墳も含めた古代鉄文化の調査をも行い、九州の鉄文化のデジタルアーカイブ化を指向する。平尾・上野・中西は27年度に収集した踏絵と鉄砲玉(平尾)、スエーデンファールン鉱山とスロヴァキアノイゾール鉱山の鉛鉱石(上野)、三重津海軍所跡出土鉛版・リベット類と開陽丸銅板(中西)の鉛について同位体分析を行う。 一方、長野・脇田・横山・沼子・栗崎は引き続き佐賀・出雲・盛岡南部・福岡の4地域とさらに山口・岡山・鹿児島の大砲鋳造・蒸気船建造にも調査を広げ、幕末明治期の鉄を中心とした金属遺物について史資料分析と金属遺物収集を行う。これらの遺物で破壊できない試料については可搬型蛍光X線分析装置で含有元素の定量分析を行う。持ち帰り溶解可能な試料片についてはICP-MS分析法でランタノイド元素とイットリウムに加えスカンジウムとその他の元素の定量分析も行い、指標元素探しを引き続き行う。砲弾に含有あるいは付着した鉛の同位体分析を引き続き行い、鉛の産地同定を試みる。最近地球科学で行われ出した鉄の同位体分析法について検討を加え、歴史資料への応用を試みる。 28年度は佐賀で第6回在来知国際シンポジウム(ISHIK2016)が開催される。中国の研究者との討議が期待される。
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