研究課題/領域番号 |
15H02944
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
飯島 渉 青山学院大学, 文学部, 教授 (70221744)
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研究分担者 |
小川 和夫 公益財団法人目黒寄生虫館, その他部局等, 館長 (20092174)
千種 雄一 獨協医科大学, 医学部, 教授 (20171936)
市川 智生 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助教 (30508875)
門司 和彦 長崎大学, 熱帯医学・グローバルヘルス研究科, 教授 (80166321)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 日米医学協力計画 / 熱帯医学 / 日本住血吸虫症 / フィラリア / 佐々学 / 横川宗雄 |
研究実績の概要 |
研究計画の2年度目として、①外務省記録の継続的な公開請求と分析、②関係者への聴き取り調査の拡大、③関係資料の保全と整理を進めた。 重点的に調査したのは、日米医学協力計画寄生虫部会の第二代部会長となった佐々学と第三代部会長となった横川宗雄の資料である。佐々は東京大学伝染病研究所教授として日米医学協力計画に深く関与し、後に富山医科大学の学長として、富山でも研究を続けた。研究資料の多くは廃棄されてしまったが、一部残されていた資料の整理を進めた。横川は、第二次大戦後、GHQとも共同研究を進め、特に、山梨県で日本住血吸虫症の撲滅のために尽力し、日米医学協力計画にも参加した。飯島を中心に、小川和夫、市川智生がこの作業を進めた。佐々や横川は多くの後継者=研究者を養成しており、田中寛(東京大学名誉教授)などへの聴き取り調査を実施した。これには千種雄一、門司和彦などから情報提供を受けた。 本年度の研究の中で、寄生虫予防会の活動が重要な役割を果たしていたことが明らかになった。同会は、数年前に改組され、事実上その組織は解散したが、後継組織が貴重な資料を保存しており、これらの整理も行った。特に、同会が刊行していた『寄生虫予防』を系統的に収集し、PDF化の作業を進めた。 フィリピンにおける日本住血吸虫症の抑制に関する資料、特にレイテ島の抑制対策に関する資料は、パロの日本住血吸虫症センターに保存されていたが、数年前の台風によって破損してしまった。本年度は、飯島と千種がこの修復に取り組んだ。同時に、フィリピン側の抑制対策のキィ・パーソンであったブラス博士やポルテリオ博士へのインタビューも行った。聴き取り記録の整理には時間を要する。また、目黒寄生虫館(小川)や長崎大学熱帯医学研究所熱研ミュージアム(門司、市川)のHPを活用して、研究成果の部分的な公開を模索している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一次資料を含む多くの資料を収集し、調査研究を進めた。特に、外務省記録=日米医学協力計画の外交文書である『日米医学協力委員会』などの文書(一次資料)や日米医学協力計画が刊行した刊行物などを収集した。また、関係者からの聴き取り調査は、ほぼ一ヶ月に一回のペースでこれを進め、フィリピンでのインタビューも実施したので、資料の収集などに関してはおおむね順調だと言える。 他方、日米医学協力計画は、実務的な研究組織であったため、研究資料の多くを刊行物として位置づけたことがなかった。そのため、国会図書館などの収集資料を調査し、同所のデータベースを確認しても、その全体像を明らかにすることは困難であることも判明した。現在、刊行物に関しては、インタヴューに応じてくださった研究者の個人コレクションを確認し、系統的な整理を試みている。この点は研究の進展のためのハードルの一つであるが、個人コレクションの確認はもっとも適切な手段と判断している。 資料の保全に関しては、その方法論を構築中である。個人情報の保護の観点からすべての資料を公開することは考えていない。実際には、研究分担者の所属機関である目黒寄生虫館と長崎大学熱帯医学研究所熱帯ミュージアムでの部分的な公開が現実的である。現在、これらの機関を横断的にネットワーク化するHPのひな型を構築中であり、これを通じて研究成果の部分的な公開を計画している。しかし、日本においては、こうしたいわば「理系アーカイブズ」の構築および資料の公開に関するスタンダードが明確ではなく、本研究計画も理念構築からスタートしている段階で、なお、一定の時間を要する。これも、研究の進展のためのハードルの一つとなっているが、現在、アーカイブズ学関係の研究者と意見交換を進めており、その助言のもとに、一定の進展を収めつつある。
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今後の研究の推進方策 |
研究分担者の門司、千種を中心に、日本熱帯医学会と緊密な関係を構築し、日本における熱帯医学の研究の軌跡や感染症対策の歴史、日米医学協力計画の貢献などを簡明に紹介するHPを、本研究計画と同学会の史資料検討委員会との共同で開設することを検討している。このHPは、長崎大学熱帯医学研究所熱研ミュージアムのHP(市川を通じて検討)と目黒寄生虫館のHP(小川を通じて検討)ともネットワーク化することを計画している。HPのターゲットは、研究者ではなく、高校生などを含む一般社会、専門家ではないが、この領域に関心のある方である。 以上の作業は、国立感染症研究所や日本寄生虫学会とも緊密な関係を構築する中で進める予定である。国立感染症研究所が所蔵している小宮義孝資料の整理はほぼ終了しており、次年度以降に目録の部分的な公開を行う。こうした作業の中で、写真と視覚資料も重要な資料であることが判明したので、次年度以降は、こうした資料群にも十分に留意して研究を進めたい。 聴き取り調査によるインタヴューも継続的に行う予定である。これまで、かなりの数の研究者に協力を依頼し、記録を蓄積してきた。次年度以降は、中国や韓国などの感染症対策や寄生虫症対策にも留意し、聴き取り調査を実施する予定である。特に注目されるのは、韓国の済州島におけるフィラリア対策、中国の上海近辺でのフィラリア対策の事例である。韓国に関しては、すでにソウル大学医学部のキム教授と連絡し、共同でフィールド調査を進める計画である。また、上海に関しても、寄生虫病研究所の研究者との連絡を進めている。 以上の研究によって収集した資料やインタヴュー記録の保全に関しても、アーカイブズ学の研究者との意見交換を引き続き進め、「理系アーカイブズ」の構築のための理念的な検討を進展させることも必要である。
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