研究課題
平成28年度は、縄文時代中期から後期への生業活動の変化と健康状態の変化を確認するために、変化した時期に対応する後期初頭の人骨に着目した調査と、昨年度までに得られた縄文時代中後期の動物骨における炭素・窒素・酸素の同位体比の解釈の基礎データとなる、現生のイノシシとシカにおける炭素・窒素・酸素同位体比の分析を行った。関東地方で遺跡数・住居址数が減少していることから、人口激減があった可能性が指摘されている縄文時代後期初頭の人骨群を調査するために、千葉県市川市権現原貝塚から出土した人骨と、神奈川県横浜市称名寺貝塚から出土した人骨で分析試料を採取し、残存するタンパク質コラーゲンの炭素・窒素同位体比と放射性炭素年代測定を測定した。放射性炭素年代の分析結果からは、権現原貝塚人骨と称名寺貝塚人骨には、これまで報告事例がほとんどない後期初頭称名寺式期の人骨が含まれていることが確認された。炭素・窒素同位体比の分析結果は個体差が大きく、時代変化よりも大きいことが示された。また遺跡間での変動も大きい。平成29年度は歯エナメル質についても分析を行うために、サンプリングについての調整を実施した。現生のイノシシ・シカ骨については、東京大学総合研究博物館に保管されている日本各地で採取された現生の骨格標本各20点から、骨とエナメル質の分析試料を得た。骨ではコラーゲンの炭素・窒素同位体比を、エナメル質では酸素・炭素同位体比を測定した。これらのデータにおいて採取された年度の気象条件等との関係について解析を開始した。
2: おおむね順調に進展している
権現原貝塚の人骨では、有機物の保存状態が不良な試料も含まれていたが、最小個体数を示す下顎骨を網羅的にサンプリングすることによって、一定のデータ数を確保することが可能となった。称名寺貝塚については、新規発掘試料がえられたため、データを追加することとした。Sr同位体比の測定については、ドラフトの設置がやや遅れたが、標準試料で前処理ならびに測定条件を確認することができた。
加曽利北貝塚と加曽利南貝塚の動物骨に加えて、加曾利貝塚・権現原貝塚・称名寺貝塚3遺跡における人骨の骨とエナメル質のデータを加えて、後期初頭を中心に人間活動の時代変化を検証する計画である。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 4件)
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