研究課題/領域番号 |
15H02947
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
南 雅代 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 准教授 (90324392)
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研究分担者 |
鍵 裕之 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (70233666)
三村 耕一 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (80262848)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 炭素14年代 / 炭化物 / 化学前処理 / 元素分析 / 赤外吸収スペクトル / 蛍光X線回折パターン |
研究実績の概要 |
炭化物から外来炭素を除去する方法としては「酸・アルカリ・酸(ABA)処理」が広く行われている。しかし近年,後半の酸処理を酸化処理に置き換えた「酸・アルカリ・酸化処理(ABOx処理)」,その後,段階的加熱(SC)を行う「ABOx-SC処理」が開発され,炭化物の化学処理法として広まりつつある。本研究は,ABA処理とABOx処理における外来炭素の除去,炭化物の本質成分の残存状態の違いを,赤外吸収スペクトル,蛍光X線回折パターン,元素比(O/C・H/C)等の鉱物的・化学的指標を用いて明らかにし,炭素14年代値との関係を探ることにより,高確度な炭素14年代測定を実現することを目指している。 今年度は,研究課題を進めていくために必要な元素分析計の立ち上げ,炭化物の化学処理法の確立,基盤となる測定データを揃えることを主に実施した。具体的には,現生植物(米・木片)を加熱して得た炭化物,そして,年代既知の炭化物(和歌山県根来寺の炭化米(AD1585),九州の火砕流堆積物中の炭化物(~44,000 BP),イラク・クルディスタンの考古遺跡から採取した炭化物(~900 BP))の分析を行った。 その結果,炭化物試料の化学処理により,脂肪族化合物(セルロース,デンプンなど),リグニン,これらの熱分解による多環芳香族化に伴って生成する反応中間生成物,土壌から取り込んだ腐植酸が除去されること,化学処理後に残存する成分は,化学的に安定な多環芳香族化合物が主であることがわかった。また,ABOx処理のほうが,ABA処理に比べて,より効率的に分子量が小さく親水性が高い成分(外来炭素を多く含む)を除くことが可能であり,化学的に安定で高分子量の多環芳香族化合物(炭化物試料の本質成分)を得る効果が高く,信頼できる炭素14年代を得ることができることがわかった。以上の結果の一部を2報の論文にまとめ,投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年3月に,所属している研究室の移転があったため,研究室内のすべての設備(試料調製ガラスライン等)を分解し,新たな建屋での再組み立てを行うこととなった。引越しの作業に入る前に,今年度計画されている研究内容を全て終了するべく,前半は実験に時間を費やした。その結果,予定していた実験をほぼ終えることができたが,炭化材の土壌埋没実験だけは手が回らなかった。 一方で,引越し前に順調に測定データは収集できていたため,そのデータの解析・考察に時間を割くことができた。得られた結果をまとめ,九州の火砕流堆積物中の炭化物の結果は"Radiocarbon"誌へ,和歌山県根来寺の炭化米の結果は"考古学と自然科学"誌に投稿した。 以上のことから,一部の研究に関しては予定どおり実施できなかったものの,全体的に見て,おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度分析した和歌山県根来寺の炭化米の年代はAD1585と若く,一方,九州の火砕流堆積物中の炭化物の年代は44,000 BPと,炭素14計数検出限界の古い年代であるため,今後は,これらの中間的な年代をもつ試料として,姶良テフラ(AT)層の炭化物を扱う予定である。AT年代に関しては,水月湖の堆積物コアの分析から30,009±189 cal BP(Smith et al. 2013)という暦年代が求められているほか,これまでに多くの炭素14年代結果が報告されており,本研究課題で用いる試料としては最適であると考えられる。具体的には,南九州,姶良カルデラ起源の大隅降下軽石と入戸火砕流中の炭化樹木を用いる予定である。また,炭素14を含まない炭化物として,約9万年前の阿蘇4火砕流堆積物中の炭化材も用いる予定にしている。 今年度の研究結果から,ABA処理とABOx-SC処理後の年代の違いは、後半のA処理をOx処理に置き換えた効果より,段階的加熱(SC)の実施の有無による効果である可能性が示唆されたため,今後は,この点に関しても詳細に検討したい。炭化材の土壌埋没実験も開始する予定である。
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