研究実績の概要 |
炭化物から外来炭素を除去し、高確度な放射性炭素(炭素14)年代測定を行うための化学前処理法として、酸-アルカリ-酸(ABA)処理法が一般である。しかし、近年、酸-アルカリ-酸化処理(ABOx処理)、その後、段階加熱(SC)を行うABOx-SC処理法が提案され、有効な手法として注目されている。本研究においては、さまざまな年代・保存状態を示す炭化材試料を用いて、両処理法による外来炭素の除去、炭化物の本質成分の残存状態の違いを、結晶スペクトルや炭素/水素/酸素比などの化学的指標を用いて詳細に調べ、高確度な炭素14年代測定を実現することを目的としている。昨年までの研究で、ABOx-SC処理法のほうがABA処理法よりも外来炭素を効果的に除去できる一方、3万年より若い試料の場合は処理法の違いによってあまり年代差が見られず、段階加熱の効果が大きいことがわかってきた。 今年度は、試料の結晶構造に関する基礎実験を行なった他、約2.4万年前とされてきた前橋泥流につき、堆積物に含まれる炭化材に異なる処理を行い、炭素14年代測定を行なった。その結果、段階加熱を行い、900℃で発生した二酸化炭素ガスのみを回収した場合に最も古い炭素14年代(22,570±60 BP)が得られ、段階加熱の重要性があらためて示された。また、この炭素14年代を、IntCal13を用いて暦年較正した結果、27,180-26,590 cal BPとなり、これまで前橋泥流の堆積年代とされてきた年代が、3000年ほども古くなる結果となった。前橋泥流堆積物は浅間火山の活動初期に存在した黒斑火山の山体崩壊に起因するとされており、今回の炭化材の信頼性の高い年代決定は、火山噴火活動の様相を明らかにするための手かがりとして重要な手がかりである。以上の結果、および、その他得られた成果を論文にまとめるとともに、学会にて発表した。
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