研究課題/領域番号 |
15H02951
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
園田 直子 国立民族学博物館, 文化資源研究センター, 教授 (50236155)
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研究分担者 |
日高 真吾 国立民族学博物館, 文化資源研究センター, 准教授 (40270772)
大谷 肇 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50176921)
小瀬 亮太 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (60724143)
岡山 隆之 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70134799)
末森 薫 国立民族学博物館, 文化資源研究センター, 研究員 (90572511)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 酸性紙 / 強化処理 / セルロース系ナノファイバー / フリース法 / エレクトロスピニング法 |
研究実績の概要 |
酸性紙対策では、脱酸性化処理で紙の劣化が抑制できても、紙の強度は復元できない。一方、既存の紙強化法は、処理後、紙が硬くなる、文字情報が見にくくなる、紙の厚みが増すなどの欠点をもつ。本研究では、セルロース系ナノファイバーという新材料に着目し、既存の劣化紙強化法がもつ欠点を克服した、新しい強化法を提示する。そのため、本研究では、劣化紙の上からセルロース系ナノファイバーを効果的に塗工する手法を技術的に確立するために実験室レベルで基礎的及び実用的な検討を行う。 初年度は、劣化紙強化法としてはフリース法とエレクトロスピニング法を対象に、市販のセルロース系ナノファイバーを用いて、最適塗工条件の検討をおこなった。フリース法では、従来の繊維を用いたフリース層を、セルロース系ナノファイバーに置き換える実験を、塗工量、片面加工・両面加工、脱酸性化処理の有無、これらの条件から検討した。結果、片面加工では水分による寸法変化から紙がカールする現象が確認されたが、両面加工により改善が見られた。また、脱酸性化処理を併用すると紙の強度向上が期待できることが判明した。エレクトロスピニング法においては、助剤の濃度を変えて検討した結果、エレクトロスピニング処理によるセルロース系ナノファイバー強化処理が可能であることが確認できた。また、同手法で用いるアルカリ助剤としては炭酸マグネシウムよりも炭酸ナトリウムの方が適していることが判明した。 フリース法、エレクトロスピニング法、いずれの手法においても、強化処理後の劣化紙に硬さはなく、また文字情報が容易に読めることが確認でき、図書・文書資料など文化財への適用が期待できる結果となった。今後の課題は補強効果の向上である。そのために、独自のセルロース系ナノファイバーの製造という材料面での改良とともに、脱酸性化処理の併用の可能性を含め、劣化紙強化法の塗工条件の改良に取り組む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、研究目的を達成するために、a.材料:紙強化に適したセルロース系ナノファイバーの製造開発、b.手法:セルロース系ナノファイバーを紙に塗布し(付着させ)強化する手法の開発、c.開発した強化法の補強効果と劣化抑制効果、ならびに保存図書・文書資料など文化財への適用性の評価、これらを組み合わせて遂行している。 初年度は、劣化紙の上からセルロース系ナノファイバーを効果的に塗工する手法を技術的に確立することを優先課題とした。そのため材料としては、容易に入手できる市販のセルロース系ナノファイバーを用いて塗工実験を行った。結果、フリース法とエレクトロスピニング法、いずれにおいても塗工条件を精査することができた。精査した塗工条件で処理後の試験紙には、既存の紙強化法のもつ欠点(処理後、紙が硬くなる、文字情報が見にくくなる、紙の厚みが増す)がなく、図書・文書資料など文化財への適用が期待できることが判明した。 同時に、今後解決すべき課題も明確になった。フリース法とエレクトロスピニング法、それぞれにおいて補強効果の向上をはかることである。そこで、材料と手法開発の両面から、下記の研究推進方策にしたがい、検討を進める。
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今後の研究の推進方策 |
課題である補強効果の向上は、材料と手法開発の両面から検討を進める。 材料面では、独自のセルロース系ナノファイバーの製造に着手する。市販のセルロース系ナノファイバーの品質は低く、本研究で求めるような紙強化に適したレベルではなかったため、期待したほどの補強効果は得られなかった。そこで市販品ではなく、独自のセルロース系ナノファイバーを調製する。具体的には、製法の異なる木材パルプ(クラフトパルプ、亜硫酸パルプ)及び非木材パルプを用いて、セルロース系ナノファイバーの作製を行う。 手法開発では、劣化紙を、独自に作製したセルロース系ナノファイバーを用いて強化し、その補強効果を検証する。フリース法では、湿紙ウェブまたは風乾状態の劣化紙の両面にフリース層を形成する。また、前年度の検討から、脱酸性化処理法による紙の強度劣化抑制効果に違いが見られたことから、最適脱酸性化処理条件の検討を併せて進める。エレクトロスピニング法では、セルロース系ナノファイバーの分散を改良するために、助剤の検討を加え、繊維配向性が優れた紡糸の可能性を検証する。それぞれの手法で強化した劣化紙を、加速強化処理に供し、劣化抑制効果を検証する。 最終目的は保存図書・文書資料など文化財への適用であるので、強化処理後の紙の硬さや厚み、文字情報の見やすさ、これらを評価する。
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