研究課題
19世紀半ばから20世紀初頭の紙の大半は酸性紙であり、世界の図書館・文書館では紙資料の保存が危機に瀕している。紙の保存を行うために、一般的には紙資料に対する劣化抑制処理(脱酸性化処理)及び強化処理が行われる。しかしながら、既存の紙強化法は、処理後、紙が硬くなる、文字情報が見にくくなる、紙の厚みが増すなどの欠点をもち、実用化にいたる大量強化技術の開発が求められている。本研究では、劣化紙の上からセルロース系ナノファイバーを効果的に塗工する手法を技術的に確立するために、実験室レベルでの基礎的及び実用的な検討を行った。具体的には、a.材料:紙強化に適したセルロース系ナノファイバーの製造開発、b.手法:セルロース系ナノファイバーを紙に塗布し(付着させ)強化する手法の開発、c.評価:開発した強化法の強度向上効果と劣化抑制効果、ならびに保存図書・文書資料など文化財への適用評価、これらを組み合わせて研究を進めた。平成29年度は、前年度にひきつづき、セルロース系ナノファイバーを広葉樹晒クラフトパルプを原料とし、研究者チームで独自に調整し、実験に供した。セルロース系ナノファイバーを紙に塗布し(付着させ)強化する手法としては、前年度に効果がみられたフリース法に比重をおいて検討を進めた。これまでの実験結果から、フリース法における最適塗工条件は明らかになっているが、課題として残っていたのが乾燥温度であった。そこで、本年度は乾燥法として、凍結乾燥、真空乾燥、熱による回転乾燥を比較検討した。その結果、真空乾燥は外観に変化を与えず、また強化処理の効果も得られることから、保存図書・文書資料など文化財へも適応できることが実験的に証明でき、強化処理法の実用化が期待できる結果を得ることができた。この成果をもとに、現在、「紙の強化方法」を特許出願中である。
29年度が最終年度であるため、記入しない。
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紙パルプ技術タイムス
巻: 60(11) ページ: 19~23
Journal of Fiber Science and Technology
巻: 73 ページ: 368~372
doi.org/10.2115/fiberst.2017-0052