流域水循環・同位体循環モデルの改良のため、長野県野辺山高原の草地・林地・畑地において土壌水同位体比鉛直プロファイルの調査を実施し、既存モデルによる再現を試みた。その結果、いずれのサイトにおいても実測値を良好に再現できなかった。その原因は可動水と不動水の不完全混合にあると考え、これを考慮したモデルの改良を施したところ、再現性が大幅に向上した。そこで、改良された流域水循環・同位体循環モデルを用いて、昨年度までに収集した同位体データならびに気象・河川流量データをもとに、流域降水量と地下水流入出量の推定を行った。その結果、一般的な流域に関しては、その規模にかかわらず、推定降水量とレーダーアメダス解析雨量とがほぼ一致した。また、地下水フラックスはいずれの流域においても正の値を示し、流域界を横切る地下水流入の存在が示唆された。その値は、流域平均標高が低い流域ほど大きくなる傾向を示したが、流域降水量に対する割合は2.2~5.5%でしかなかった。すなわち絶対量としては極めて小さく、また全ての流域で正の値となる不合理さを勘案すると、有意な値とは言い難い。したがって、一般的な流域においては、水収支インバランスが仮にあったとしても誤差の範囲でしかなく、水収支評価上大きな問題となるレベルではないと結論づけられた。一方、温泉地や火山体湖沼流域では流域界を横切る地下水流が無視できないとの結果も得られていたため、データを補完しつつ詳しい解析を追加した。その結果、調査対象とした長野県の源泉の約30%は地形上の流域界の外側で涵養されていることが判明した。しかしながら、流域降水量と比較してオーダー的に極めて小さく、流域水収支を左右するほどのものではなかった。また、火山体湖沼流域においても同位体比の時空間変動性や河川流量データの乏しさのため、流域界を横切る地下水流の存在を確定するには至らなかった。
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