研究課題/領域番号 |
15H02963
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
森永 由紀 明治大学, 商学部, 専任教授 (20200438)
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研究分担者 |
高槻 成紀 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員 (00124595)
尾崎 孝宏 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 教授 (00315392)
河合 隆行 鳥取大学, 乾燥地科学研究センター, 研究員 (20437536)
石井 智美 酪農学園大学, 農食環境学群, 教授 (50320544)
田村 憲司 筑波大学, 生命環境系, 教授 (70211373)
上村 明 東京外国語大学, 外国語学部, 研究員 (90376830)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 馬乳酒 / モンゴル / 遊牧 / 伝統知 / 発酵食品 / Non Cow Milk / 文化遺産 / 自然保護 |
研究実績の概要 |
アイラグ(発酵馬乳)と馬乳の試料の収集を主目的に2016年8月5日にアイラグの名産地であるボルガン県のモゴド郡にてアイラグ品評会を開催したところ、51戸の参加があった。5名の審査員によりアイラグの味の評価を行い、試料については物性値や無機成分を調べた。併せて51戸の牧民を対象にアンケートを行い、牧民がアイラグ製造の際に重視している項目について質問した。 主な結果は以下のとおりである。 ①アイラグの評価点の中央値の分布をみると、モゴド郡の中央の南北の谷沿いに高い評価を得たゲルがみられる。 ②アイラグと馬乳試料の物性値や無機成分を調べた結果と品評会での評価点との関連について検討した。分析項目は、1)電気伝導度(EC),2)pH, 3)密度,4)糖度(Brix), 5)Ca, 6)P, 7)Mg, 8)Na, 9)Kである。評価点を応答変数、測定値を説明変数としてCART法によって分類樹木を作成した。統計解析にはRを用いた。EC(電気伝導度)が高いアイラグは低評価で、ECが低く、Caが低いアイラグには高評価のものが多く、Caが高濃度だと低評価が多い傾向がみられた。ECは酸味、Caは硬度と関わる要素であり、酸味や硬度が高いアイラグが低評価であることが示唆された。 ③アンケートへの回答者の平均年齢は45.7歳で、家族の平均人数は4.6人、作業に従事する平均人数は2.5人で、搾乳する牝ウマの数は平均23.8頭である。アイラグは多くの家庭で6ー9月にかけて盛んに作られる。日中数時間おきに搾乳を繰り返し、スターターを入れた容器に馬乳を冷ましてから投入し、数時間にわたって棒で撹拌し、一晩静置すると翌朝には出来上がる。一日の平均搾乳回数は7回、一回の平均搾乳量は26.8リットル、平均撹拌時間は夏に4.3時間、秋に3.5時間であり、牧民はアイラグ製造に多大なエネルギーを注いでいることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
名産地でアイラグの品評会を2016年8月5日に実施し、51戸の参加があったことにより、飲み頃などの条件の揃ったアイラグや、馬乳の試料を収集することができた。また、ウマを飼育している地域の位置情報、アイラグの製法などに関する周辺の情報も得られ、研究が大きく進展した。 一方で、これらの準備および解析などに労力と予算の大半を注ぎ、当初予定していた項目のうち次のものは未達成のまま残っているため、平成29年度に実施する。 1)名産地における年間を通じたウマの行動範囲を、気象データおよび植生データとあわせて解析する。 2)モンゴル東部の主要な馬産地の一つであるスフバートル県オンゴン郡で調査を行い、馬が多いのにも関わらずアイラグが作られない背景を探る。
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今後の研究の推進方策 |
テーマ(1) アイラグ製造法の記録と検証:昨年度は、「名産地ではどういう手順で馬乳を発酵させアイラグを作るのか?」の問いに答えるため、製造法に関するアンケート調査をモゴド郡で51戸に対して実施した。それらを元に現地で補足のインタビューを行い製造法を記載する。 テーマ(2) 名産地での自然科学的観測:一昨年度、昨年度に引き続き名産地モゴド郡の中でも名産地とそうでない場所の比較を行う。このため、気候・地質は同じであるが、オルホン川沿いで沖積地が広がる場所と、斜面が卓越する場所で地質・土壌・地下水・植生・馬の食物組成(糞分析による)・アイラグと馬乳の物理・化学・栄養成分を調査する。また、昨年着手できなかった、年間を通じた馬の行動範囲を気象データおよび植生データとあわせた解析を行う。 テーマ(3) 名産地での社会科学的調査:社会主義時代、名産地としての地位が確立していく過程の調査。名産地としての全国的地位の確立には、社会主義時代それまで自家消費と地域内消費にとどまっていた消費が都市に拡大したことが大きな契機になったと考えられる。今年度はとくに地域におけるアイラグの味の差異に着目し官能検査も用いながら、当該地域の名産地としての地位の確立にアイラグの味の評価がどのように影響したか調査を行う。 テーマ(4) 他地域との比較:昨年度は予算の都合上モンゴル国での調査を見送った。一昨年度は、当初の計画を変更して内モンゴルでのアイラグ製造調査を実施したので、今年度はモンゴル東部の主要な馬産地の一つであるスフバートル県オンゴン郡で調査を行う。当地はモンゴルの伝統的な競馬で使われる競走馬の産地として知られる一方で、アイラグ作りは盛んでない。その理由として、気温や植生などの環境、労働力配分などの生産能力、販路の乏しさなどの要素が想定されるが、これら要素間の関係を現地での観察と聞き取り調査より明らかにする。
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