研究課題/領域番号 |
15H02973
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
今井 潤一 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (10293078)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 準モンテカルロ法 / 近似動的計画法 / 金融工学 / リスク管理 / リアルオプション |
研究実績の概要 |
本研究の主要目的の第1 である「金融の問題に適用できるADPRL手法の確立と実装」に関しては,本年度は,特に不確実性下の最適な意思決定として問題を定式化した場合の最適なリスク尺度に関する研究が進展した. 金融工学の分野では,リスク資産への投資を評価する際に,古くからリターンの分散や標準偏差が用いられてきた.また,リスク管理の分野では,VaR,ESの活用が提唱されてきている.一方で,人間の心理的側面に焦点を当てる行動ファイナンスの分野の研究によると,現実の人間は必ずしもそのような基準に従っていないという実例が数多く報告されている.本研究では,人間のリスクに対する態度を規定する効用関数,実務上有用なリスク尺度,確率分布間の優劣を議論する確率優位などの諸概念を統合し,より一般的なリスク尺度の構築に関する研究を継続しており,本年度は数多くの研究発表を行った. また,ADPRLの主要な数値計算手法である準モンテカルロ法の効率化手法に関しても,いくつかの重要な進展があった.不確実性の認識を従来のリスクではなく,より深いレベルの不確実性として認識するambiguityの理論研究,それをADPRLの枠組みとして定式化する研究は,今年度も継続して行っており,これは今後も継続する計画である.ADPRLの主要課題の一つである高次元性については,機械学習の手法をベースにいくつかのアイディアがあるが,まだ十分な成果として発表できる状態ではないので,これは今後の課題として継続していく予定である. 本研究の主要目的の第2である「現実的な金融問題に対するADPRL手法の適用による新たな知見の蓄積」に関しては,リアルオプションの考え方を実問題に適用したリアルオプションアプローチを用いた膜天井事業新規ビジネスに関するケーススタディを複数の学会で報告し,専門家との討論を重ねた後,現在投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は,研究途中に,新たな研究テーマがいくつか浮かび,それらも並行に扱うこととなった.事前に計画した個別の研究テーマそれぞれに関しては,着実に前進していると考えているが,本年度1年間の成果として,出版を目指していたいくつかの研究が,査読プロセスの予想外の遅れや,共同研究者とうまく時間が調整できなかった,などの理由より,最終出版にまで至らなかったことから,現在までの進捗状況をやや遅れていると評価している. その他,一昨年から取り組んでいるambiguityを考慮したリアルオプションの評価モデルの研究が,開始当初は想定されていなかった最適化するときの技術的な問題を解決するのに時間を要している.また,ADPRLの基本モデルの開発に関しても,低次元のモデルは開発済みであるが,同じ問題の高次元のモデルに対しては,「次元の呪い」の問題に直面し,期待される成果を出すにはさらなる工夫が必要であると考えている.一方,準モンテカルロ法の効率化については,共同研究者とともに新しい実質次元減少法としてのdelta methodを開発した.さらに複数の高次元関数を比較し,それらを準モンテカルロ法の観点からその優先順位を決定する概念としてseverityの概念を提案した. 一方で,本年度はADPRLの評価基準を議論する上で重要なリスク尺度に関する研究は大きく進捗したといえる.このテーマに関する合計5件の共同研究発表を行い,現在それをまとめた2本の論文の作成を行っている.また,金融市場の現実を調べる目的での実証研究として,"An empirical analysis of the dependence structure of international equity and bond markets using regime-switching copula model"が採択された.
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今後の研究の推進方策 |
第1の方針は,前年度からの継続研究である.具体的には,より高いレベルのambiguityを考慮したリアルオプションの評価モデルの研究,リアルオプションに関するケーススタディ,高次元のADPRL問題の数値解法の開発,実証データを用いた金融市場の分析などが,これに該当する.加えて,ADPRLの重要な構成要素となる準モンテカルロの効率化の研究も,昨年度いくつかの進展があったことから,本年度はこれを継続して研究を進める予定である. 今後も,研究報告に加えて最新の研究を調査する目的でも数多くの学会に参加する.
第2の方針としては,本年度進捗が遅れていると判断した部分について,より強く推進することである.具体的に,これまでの成果を厳密かつ体系的にまとめて研究論文とし,ジャーナルへの出版を目指すことである.先に述べたとおり現在のところ,これまで行ってきた学会発表の討論や共同研究者との議論を通じて,論文を修正,拡張し,研究成果としてまとめている研究が多数残っており,本年度は特にこれらの研究を論文として出版するための作業を集中して行う必要があると考えている.
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