研究課題/領域番号 |
15H02976
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
五十嵐 一 北海道大学, 情報科学研究科, 教授 (90212737)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 振動発電 / 環境発電 / エネルギーハーベスティング / 無線センサ / センサネットワーク |
研究実績の概要 |
橋梁や道路橋,トンネルなど社会インフラの老朽化が問題になっている.これらの安全監視には,高密度に配置された無線センサが有効である.しかし無線センサのバッテリー交換は膨大な人件費を必要とする.このためバッテリーを必要とせず,環境から回収したエネルギーで自律的に動作する無線センサの開発が急務である.構造物の微小振動から電力を得る振動発電はこのような環境発電に極めて有効である.しかし従来の振動発電では共振周波数のみで動作するため,構造物の広い周波数帯域の振動から効率よく発電できなかった.本研究では,広い周波数帯の振動からエネルギーを効率的に吸収するカオス振動発電方式を開発し,実験と数値計算によりその基本特性を明らかする.さらに開発した発電機が実環境で無線センサを安定的に駆動可能であることを実証する. H28年度は,前年度に開発した新しい振動発電機の特性計測を行い,また特性向上のための研究を実施した.この振動発電機は,2つのコイルを振動の垂直面に並べた構造を持ち,コイル中に埋められた磁性体(電磁鋼板)と永久磁石が閉磁路を形成するように工夫している.この振動発電機のコイル巻き数を増加させるとともに,コイルと電磁鋼板間の絶縁を完全に取るようにした結果,20Hz付近で10kΩの出力抵抗に対して最大0.7Vの出力電圧,約0.5mWの電力が得られた.またこの振動発電機は非線形振動を行うため,通常の線形振動よりも広い周波数帯域で発電できる.今年度,実際に橋梁の振動スペクトルを計測した結果,10Hz程度に共振ピークがあることがわかったが,十分大きな振動加速度の下において,本振動発電機は10Hzでも発電することが可能である.また今年度には,振動発電機の構造最適化のための磁気回路モデルを構築し,実際に最適化を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度においては,計画どおり2つのコイルを振動の垂直面に並べた構造を持つ振動発電機の特性を計測するとともに,その出力向上のための検討を行った.またカオス振動,2重ポテンシャル間を遷移する非線形振動,一つのポテンシャル井戸の周りの線形振動の3つの振動形態がどのような条件で生じるかを明らかにした.これらの結果は,国際学術雑誌に論文として掲載された.また振動発電機の構造最適化のためには,振動子に作用する力に関するポテンシャル構造を解析しなければならないが,従来われわれが用いてきた3次元有限要素法では長大な計算時間を要していた.この困難を回避するため,より計算負荷の軽い磁気回路法でポテンシャルを解析することとした.ここで特定の構造の振動発電機に対する3次元有限要素法により得られるポテンシャルに磁気回路で得られるポテンシャルが適合するように,磁気回路の定数を遺伝的アルゴリズムで決定した.検討の結果,構造パラメータの値域を適切に限定すれば,磁気回路法は3次元有限要素法とほぼ同程度の精度を持つことがわかった.また本年度においては,振動発電機により発電した電力を蓄電し,無線デバイス(ZigBee規格)を動作させ,計測したセンサ信号を基地局に向けてワイヤレス伝送するための検討を開始した.
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今後の研究の推進方策 |
振動発電機で得た電力により無線デバイスを動作させるためには,交流電圧を直流に変換する整流回路と,蓄電モードと無線デバイス動作モードを切り替える機構が必要である.このため,整流回路としてコッククロフト・ウォルトン回路を用い,昇圧・蓄電制御回路としてBQ25504を用いる予定である.また無線デバイスとしてIM315TXを用い,通信実験を行う予定である. 前年度の橋梁振動の測定により,共振ピークが10Hz程度であることがわかった.また他の橋梁ではさらに低い共振周波数を持つ可能性がある.しかし現状の振動発電機は20Hz程度の共振ピークを持ち,これをさらに下げるためには装置自体を大型化しなければならない.したがって,振動発電機の構造を見直し,発電機のサイズを保ったままより低い共振周波数を持ちうる機構を検討する必要がある.さらに,橋梁の振動加速度は最大で0.1G程度であるが,その程度の加速度では,現状の振動発電機は無線デバイスを動作できるための電力を発電することが難しい.このため,0.1G程度の微小振幅でも無線デバイスを動作できるような振動発電機の新しい機構の検討を行う.
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