研究課題/領域番号 |
15H02981
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研究機関 | 湘南工科大学 |
研究代表者 |
井上 文宏 湘南工科大学, 工学部, 教授 (50211751)
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研究分担者 |
北洞 貴也 湘南工科大学, 工学部, 教授 (30204910)
西田 英一 湘南工科大学, 工学部, 教授 (70410032)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 検査ロボット / 不整地 / 垂直壁面移動 / 建物劣化検査 / 打音検査 / 画像処理 |
研究実績の概要 |
本研究では平常時にロボットの検査作業が見込まれる建物劣化診断技術に着目し,平常時や災害時にも使用できる新しい検査ロボット(不整地を移動し,垂直壁面を昇降できる拠点ロボットと壁面上を高速移動して検査を行う自走検査ロボット)と災害損傷を受けた建物の劣化状態を診断する方法を確立し,検査ロボットの継続的な運用を行うことを目的とする。 初年度(27年度)は以下の3つの内容について研究を進めた (1)拠点ロボットの基礎研究 不整地を移動する拠点ロボットの移動台車の設計と製作を行い,その走行試験を実施した。また,垂直壁面上を移動するための反力機構(真空ファンによる吸着方式と大流量ブロアーによる押付方式)の基礎実験装置を製作し,その性能と検証を実施した。吸着方式では漏れ流量を考慮し,ロボット本体の容積を可変できる機構を採用することで,吸着移動が容易となることを確認した。押付方式ではブロアーの流量を十分に保つことで,静止維持可能な設計パラメータの取得が可能となった。今後2つの方式を併せたハイブリットな移動技術を目指す予定である (2)自走検査ロボットの基礎研究 検査ロボットは建物壁高所に設置された拠点部から吊るされ,そのワイヤー張力と検査ロボットの駆動力を併せた合力を基に壁面を高速移動す機構である。本年度はワイヤー巻取り装置の設計と製作,予備実験を実施した。ワイヤーの微動な変化をトルクメータで検出し,ロボット移動とワイヤ―駆動が同期する制御機構を製作した。自走ロボットの駆動には全方位移動台車を検討しており,その設計を実施した。 (3)建物劣化診断方法 壁面劣化検査用(タイル面)試験体の製作,打音検査装置の製作,画像処理システムの導入を行った。壁面の劣化状態(空洞や損傷)を検出する打音データの取得と騒音解析(時間,周波数解析)用のシステム構成を実施した。今後,劣化判断基準の検討を加える予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度(27年度)の進捗状況を以下に示す (1)拠点ロボットの基礎研究 本年度は不整地を移動する拠点ロボットとして,メカナム機構台車を連結させた特殊移動ロボットの製作を行い,その動さ性能を確認した。2台を連結することで,凹凸部での走行,転倒回避が可能となり,走行が容易であることを確認した。垂直壁面の反力機構実験では,2種類の実験装置(吸着方式と押付方式)を製作し,反力維持のためのデータを取得できた。拠点ロボットに装備するためのハイブリット機構の検討,ロボットの軽量化などへの見通しを付けることができた。 (2)自走検査ロボット 検査ロボットではワイヤー巻上げ制御技術の確立が必要であり,その巻き上げ装置の設計と製作を実施した。この装置ではワイヤの張力変化をトルク変化として検出し,ワイヤーの出入れをリアルタイムにできる機構を目指している。次年度ではこの装置を用いてワイヤーの制御手法の確立を予定している。一方,検査ロボット本体の設計では,高速移動する駆動機構と(3)で実施する検査装置を搭載する予定であり,両者の進捗状況を踏まえて設計に反映する予定である。 (3)建物劣化診断方法 建物壁面の劣化状態を模擬した試験体(タイル面)の製作,打音検査装置の製作,画像処理システムの導入を行い,劣化診断技術の確立を目指す準備はほぼ完了した。また,試験体の劣化状態(空洞や損傷)を検出する打音データの取得と騒音解析(時間,周波数解析)の基礎実験を行い,劣化状態の特性を得ることができた。また,壁面上を検査する画像処理計測装置の導入や基礎実験も開始した。今後はウエーブレット解析などの処理計算技術を導入し,劣化判断基準の新たな検討を加える予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(28年度)は以下の3つの内容について研究を進める。 (1)拠点ロボットの制御技術の確立 初年度に製作した拠点ロボットに対し,不整地での走行実験を様々な条件で実施する。ここでは不整地面から壁面移動に移る際の手順や,移動状態に応じた押付力の方向や力バランスを解析的かつ実験的に見出し,自律型アルゴリズムの考案と制御プログラムの製作を行う。また,ロボット本体を固定するための把持ハンドに対し,状況に応じた各種の固定方法を具体化する。さらに拠点ロボットの位置情報の取得や外部通信方法を具体化し,確実な拠点確保技術を確立したい。 (2)自走検査ロボットの基礎研究 初年度に作成した巻取機構の制御技術を確立し,検査ロボットの指令に基ずく,リアルタイムなワイヤー出入れ制御を確立する。また,全方位移動台車と壁面検査装置から構成される検査ロボットの設計と製作を行い,自走試験を実施する予定である。目標範囲は高さ5m(100㎜間隔),長さ3m (200mm間隔)とし,順次間隔を狭めて移動精度の検証を行う。搭載する検査装置の制御や通信方法の開発が間に合えば,移動と検査を交えた実験も実施する予定である。 (3)建物劣化診断方法 初年度に製作した試験体(タイル面)を用いて,打音検査による劣化診断方法の確立を目指す。特に,人が判定した優劣判定と合致する診断技術や,人が優劣を判断できない場合の診断技術などを比較しながら,独自の検査方法を確立してゆく。またコンクリート壁(タイルがない例)を想定した試験体を作成し,その劣化状態を打音検査と画像処理検査を用いて診断してゆく。画像処理ではひび割れ汚れ,変色などの人が判断できないケースを見分けるような制御,検査技術を目指してゆく。
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