研究課題/領域番号 |
15H02986
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中村 教博 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 教授 (80302248)
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研究分担者 |
後藤 和久 東北大学, 災害科学国際研究所, 准教授 (10376543)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 地磁気 / 津波起源巨礫 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、挑戦的萌芽研究でチャレンジした地磁気を利用した津波起源巨礫の年代推定法を発展させて、これまで放射性炭素年代値よりも古く見積もられていた年代を公正することと、我々の手法を広く世界中の巨礫の年代推定に応用することであった。また、津波による砂質堆積物の古流向を磁気異方性から求めることや断層破砕帯の形成時期推定も同時に行うことであった。そこで、今年度は古く見積もられる欠点を克服するべく、非線形統計物理学で用いられている拡張型指数関数を岩石磁気分野に応用し、これまで理論的に説明がつかなかった実験データを統一的に説明することに成功した。さらにこの拡張型指数関数は年代値のズレも説明できることを証明し、国際学術雑誌で公表した。また、これまで磁気異方性を用いて砂質の津波堆積物の流動方向を推定する研究が多く知られているが、本当に古流向を表しているかどうかわからなかった。そこで、今回北海道霧多布地域に分布する砂質の津波堆積物に応用することで、磁気異方性の方向が90度ずれる事例があることを報告した。さらに、野島断層破砕帯の岩石試料が2次的な古地磁気方位を持つという先行事例を利用して、我々の地磁気を用いた年代推定法の応用を実施した。その結果、いくつかの課題が見えてきた。それは断層破砕帯が形成される時に地表面ではなく、ある深さで形成されるために、形成深度の情報がなければ正確な年代を推定できないことである。しかしながら、野島断層破砕帯試料を薄片にし、その薄片を走査型超電導磁気顕微鏡で観察することで、どこがすべり面かを決定し、さらにそのすべり面が摩擦滑り時にどの程度温度が上昇したのかを決定することにも成功した。この成果も国際学術雑誌で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで三十年以上懸案事項となっていた地磁気年代が’古く’見積もられる問題に対して、岩石磁気とは全く異なる視点を導入することで解決できた点は評価できる。ただし、この理論的な背景に基づいて、天然データをいかに説明できるかを示してゆくことで、理論の信頼性をあげてゆくことが今後の課題である。また、実績では記述していないが、トンガ本島西岸に分布する世界最大の津波起源巨礫の地質調査及び古地磁気測定の結果、巨礫群が異地性であることを見出している。さらに、当初全く予定していなかったが、トンガ本島の東岸にも巨礫群を発見することができ、トンガにおける津波の起源を単なる海底火山による津波ではなく、トンガ海溝起源の巨大津波を考慮しなければならないことが判明した。この新たな発見は、災害科学的に非常に重要な示唆を有している。また、今年度は砂質の津波堆積物の磁気異方性の研究、断層破砕帯における滑り面の決定に関する成果を得ることができ、概ね順調に研究が進展してきていると判断することができる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの進捗状況は順調に推移していて、さらに今年度後期に新しくスピナー磁力計を導入することができ、これからは磁性の弱いサンゴ礁起源の津波巨礫と磁性の強い八丈島の火山岩起源の巨礫の試料を分けて測定できるようになった。また、来年度はトンガ本当の巨礫調査に加え、周辺の島々の地質調査を実施し、包括的に津波起源巨礫の調査を実施する予定である。これによって、トンガを襲ったと考えられる巨大津波の原因とその時期の決定を目指したい。また継続的に巨礫の古地磁気測定を実施し、年代のズレを補正した結果を順次公表してゆき、我々の手法の信頼性をあげてゆく努力をしてゆく。
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