研究課題
これまで十分な検討が行われてこなかった微動アレー観測手法の高効率化の理論を実データに基づく検証に着手した。アレー観測においてもっとも手間がかかるのは,観測点の位置の選定と実際にその位置を現場で同定することであり,アレーサイズが大きくなるとその問題が顕在化することは昨年度指摘したとおりである。H27年度には従来の三角形アレーでなくても直線アレーを用いて位相速度の推定を可能とする理論を構築した。また,提案手法は位相速度の推定だけでなく,任意の二地点で観測された微動の上下動のスペクトル比から基盤の傾斜を推定できる。H28年度は直線アレーに限らず任意形状のアレーにも適用可能かどうかの理論的検討をはじめるとともに,実際の地盤上で観測を行って理論の検証を行った。特に,当初の計画には含まれていなかったが,2016年熊本地震が発生したため,熊本地震によって大きな被害が発生した益城町周辺を対象地域に加えて観測を実施した。一方,構造物の動的性質の同定については,構造物の応答特性については,構造要素間の伝達特性の推定手法において減衰特性を十分な精度で同定できないことが明らかとなってきている。そのため,H28年度には減衰特性を精度よく同定するための手法の検討に着手した。また,理論の検討と並行して実際にいくつかの実在構造物に数の地震計を設置して微動の同時観測を行った。この観測によって得られた記録はH29年度以降に新たに開発した理論を適用しながら解析を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
当初計画では,微動アレー観測の効率化のための理論的手法を検証するために,H28~H29年度に実際に観測を実施して提案手法を用いて解析を行うこととしていたが,その目標は達成されている。2016年熊本地震が発生したため,その調査などでH28年度前半は当初の計画どおりに研究を推進することができなかった。しかし,熊本地震による被災地では被害の要因を明らかとするために多くの研究機関により種々の地盤調査が行われたために,地盤構造が明らかとなってきた。そのため,観測の対象地域に熊本地震によって大きな被害を受けた益城町周辺を加えて重力観測および,微動観測等を実施した。また,構造物の減衰特性の推定方法についても理論的な検討をすすめ,並行して構造物での微動観測を行った。記録の解析は一部がH29年度に残されているが,これは当初からの計画通りである。よって,研究は当初の予定通りおおむね順調に進んでいるといえる。
H28年度から二年程度の予定で理論を検証するために観測とデータ解析を行う予定であった。H29年度はH28年度におこなった観測で得られた記録の解析を引き続き実施する。しかし,解析の過程で記録が不十分であるような事態が出来した際には追加の観測をおこなう。解析の対象とする記録は地盤上で得られた直線アレーの微動記録および,ひとつの構造物上の多数の地点で同時に得られた微動記録である。また,構造物の減衰の推定手法についてもさらに理論的検討をすすめる。
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 6件)
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