研究課題/領域番号 |
15H02995
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
柄谷 友香 名城大学, 都市情報学部, 教授 (80335223)
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研究分担者 |
近藤 民代 神戸大学, 工学研究科, 准教授 (50416400)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 住宅再建 / 生活再建 / 市街地空間形成 / 防災計画 / 広域巨大災害 |
研究実績の概要 |
東日本大震災後の沿岸9市町を対象としたプレ質問紙・ヒアリング調査を実施し,自主住宅移転再建プロセスを1)ひと,2)空間の視点から明らかにした. 1)ひと:自主住宅移転再建者の意思決定と再建行動の実態 自主住宅移転再建者が個人単位の移転を決めた理由は,津波リスクの軽減に加えて,市街地整備事業の大規模性に起因する長期化を懸念した事業の回避である.土地需要の高まりによる好条件の土地不足と価格急騰を受けて,短期間で移転の意思決定を行い,利便性と親和性を求めて,自らの金銭的資源の中で土地取得を行っている.その再建行動は,防災集団移転による宅地造成数の見直しなど被災自治体による市街地整備事業の方針変更に大きな影響を与えている. 2)空間:新規着工建物による市街地空間形成と空間的特徴 第1に新規着工建物は沿岸部から遠ざかって立地し,町の中心部の内陸化を進めている.第2に新規着工建物の分布は市街地の拡張と開発形態という軸によって分類することができる.例えば陸前高田市では非住居系エリアにおける宅地造成を伴う新規開発が都市計画区域外に及び,市街地のスプロールと低密度化を招いている.第3に新規着工建物の集積は被災自治体が復興計画で描いた将来の市町の空間像との乖離を生じさせる可能性がある.石巻市では震災前後に進められた自治体による都市計画と呼応するかたちで新規着工建物の立地が進んだ.一方,陸前高田市では復興整備計画においてコンパクトに配置された高台団地を超えたエリアで新規着工建物が低密度に分布している.以上のことから,被災者個人の住宅再建を空間的に誘導する計画技術と政策が必要であることが示唆される.震災4 年半が経過した今求められているのは,新規着工建物と市街地整備事業によって形成されている居住環境を前提として復興まちづくりの再出発をすることである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主テーマである自主住宅移転再建プロセスの枠組みを,現地調査,質問紙・ヒアリング調査の他側面から構築することができた.得られた知見は,次年度以降の悉皆調査と仮説検証に向けた基盤構築に相当しており,概ね順調に進展していると評価する.
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今後の研究の推進方策 |
自主住宅移転再建は早期の生活回復をもたらし,個人・世帯の効用を高めることが期待される.しかしながら,被災地での人口減少や少子高齢化,雇用機会の縮減を鑑みれば,地域のマネジメントという観点からコンパクトな市街地形成が求められる(空間的持続可能性).合わせて,移転先の新規住宅地における安全性や,自治会活動などコミュニティ機能の維持(社会的持続可能性)があってはじめて,望ましい住宅復興と言える. まず,これまで進めてきた作業・調査により特定した自主住宅移転再建先の空間分布を把握するため,WebGISにshapeファイル化したポイントデータを入力する.その際,ポイントデータには,ID,緯度・経度,建物種別と合わせて,プレおよび悉皆質問紙調査により明らかにした再建プロセスを属性として付与する.ここでWebGISを利用するメリットは,同時に複数人による入力や編集,共有を可能にし,作業が効率的に進められる点である.このデータ(レイヤ)に,震災前の市街地形状(公共建物,家屋,道路,鉄道など)及び土地利用図,震災後の津波浸水区域,災害危険区域をレイヤとして重ねることによって,自主住宅移転再建に伴う市街地形成の変容を可視化し,非コンパクト化の程度を分析・評価する. また,洪水ハザードマップや土砂災害警戒区域をレイヤとして重ねることにより,移転先住宅地の災害リスクを評価する.さらに,質問紙調査により把握した「震災前後の自治会活動や近所づきあいの変化」をWebGISで空間表示させることにより,コミュニティ機能の評価を行う. 紙媒体のshapeファイル化など膨大な作業もあり,効率化に向けて,民間コンサルタントの協力を得るなどの工夫を講じる。
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