研究課題/領域番号 |
15H02998
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
梅田 浩司 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (60421616)
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研究分担者 |
上嶋 誠 東京大学, 地震研究所, 准教授 (70242154)
浅森 浩一 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, バックエンド研究開発部門 東濃地科学センター, 研究副主幹 (80421684)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 深部流体 / 地殻変動 / 原子力施設 / 地質リスク |
研究実績の概要 |
島弧地殻では,深部流体の上昇によって下部地殻のみならず上部地殻にも部分的に非弾性変形が生じており,歪集中帯の形成や内陸地震の発生とも密接に関係しているらしい。これまでの調査・観測・解析によって,2011年東北地方太平洋沖地震で誘発された福島県・茨城県境の群発地震活動域(以下,浜通り群発地震域)の直下には阿武隈山地の堆積岩,変成岩類に由来する続成~変成脱水流体(非マントル流体)が存在することが明らかになった。一方,これまでのGPS観測によって南九州の北緯32°付近には,東西方向に伸びる左横ずれ剪断帯(以下,南九州剪断帯)があり,この直下には,沖縄トラフ付近から伸びるアセノスフェアに由来するマントル流体が上部地殻まで侵入している可能性がある。 これらの2つの地域の下に存在する流体の分布を低粘性領域(粘性率1×10^18 PasのMaxwell粘弾性体)と仮定し,地殻変動シミュレーションを試行した。浜通り群発地震域では,流体分布域の直上では圧縮応力場を示す一方で,その上位では伸長応力場を示した。また,鉛直変位場では,流体分布域の上位で隆起が生じている。これらの結果は応力テンソルインバージョンで推定された現在の応力場や水準測量や海成段丘の比高から推定される数十~数万年オーダでの上下変動の観測とも整合的である。南九州剪断帯では,局所的にせん断ひずみ速度の大きな領域(2~4×10^-7 /yr)が現れ,それらが地殻深部から地表へと繋がる様子が認められた。この領域は1997年鹿児島県北西部地震の余震域の分布と整合的であった。以上のことから,地殻内に存在する流体がその周辺の地殻変動場に大きく関与している可能性が高いことから,数万年以上の長期スケールでの地質リスクの予測・評価において地殻内の流体(深部流体)の存否やその分布は考慮すべき重要な要件となり得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
南九州剪断帯では10点のGNSS稠密観測網による観測を継続しているが, 2016年熊本地震が発生し,震源から60 km以上離れた稠密観測点における座標の時系列にも,地震に伴うステップと余効変動が顕著に出現した。そのため,稠密観測網で得られた変位速度に対し,熊本地震の粘性緩和に加えて桜島の火山性変動を補正し,剪断帯に平行な方向の速度プロファイルを求めた。これによると地表で観測される変位速度は,剪断帯に仮定した鉛直横ずれ断層を境にarctangentの形を示す地殻変動パターンが認められるが,これは地震前後でよく一致しており,余効変動の影響は適切に推定・除去できたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
南九州剪断帯については,これまで行なわれたGPS稠密観測,MT観測,地震波トモグラフィー,地下水溶存ガスの同位体分析等のデータの総合解析によって地殻の不均質性や非弾性変形領域の推定を試みる。なお,ここでは複数の期間における変位速度場を求め,その時系列変化に基づく短周期ノイズの除去およびGEONETから求められた広域速度場,稠密GPS観測から求められるローカルな速度場を用いて,高分解能かつ高精度の変位速度場を推定する。
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