研究実績の概要 |
日本列島における地殻変動は,プレートの沈み込みに伴うプレート間相互作用や地殻内の物性不均質に支配されている。特に,長期に及ぶ地殻変動シミュレーションを行う場合,地下の温度構造や,近年明らかになりつつある深部流体の存在に伴う粘弾性不均質を考慮した解析を行い,地殻の非弾性変形を検討することが重要である。本年度は,比較的若い時代に変動が開始したとされる九州南部のせん断帯を対象とし,有限差分法による3次元粘弾性シミュレーションを行った。ここでは,先の解析と同様に,地下深部の粘弾性不均質構造を考慮したシミュレーションにより,GNSS観測から指摘される北緯32°を東西に横切るせん断ひずみ速度の高い(1~2×10-7 /yr)領域や,その内部のひずみ集中域の形成など,大局的な地殻変動の再現を試みた。解析では,物理モデルとして,内陸地震の発生過程に関するモデル(Iio et al., 2004)を適用し,1997年鹿児島県北西部地震の余震域周辺における比抵抗構造(Umeda et al., 2014)などをもとに流体分布域として低粘性領域(粘性率1×1018 Pa.s のMaxwell粘弾性体)を仮定した。また,領域東端からフィリピン海プレートの沈み込みによる変位速度を,領域西端から沖縄トラフの拡大による変位速度を境界条件として与えた。対象領域は,せん断帯を含む東西200 km,南北300 km,深さ30 kmに設定し,深さ15 kmを境に上部地殻(弾性体)と下部地殻(粘弾性体)に区分した。また,弾性パラメータは,防災科学技術研究所による深部地盤構造モデル(藤原ほか, 2009)を,粘性率はKaufmann and Amelung (2000)を採用した。この結果,低粘性領域を仮定した鹿児島県北西部地震の余震域では,局所的にせん断ひずみ速度の大きな領域(2~4×10-7 /yr)が現れ,それらが地殻深部から地表へと繋がる様子が認められた。以上の結果は,地殻内に存在する流体がその周辺の地殻変動場に関与していることを示唆する。
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