研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、生体内に存在する特定の細胞の特異的ニッチ機構の解明を通じ、生体外での人工ニッチ再構成によって生体内と同じ構造、機能をもつ細胞を多能性幹細胞等から分化・成熟させることにある。具体的な標的は、生体内と同じ機能をもつ血小板を高効率で放出産生させる“巨核球成熟・血小板放出”人工ニッチを再構成することである。そこで本年度は、(1)生体内、特に骨髄内の血小板産生の場の画像取得、その血流および細胞膜周囲の流体解析データから得られる複数の物理パラメーターおよび流体ベクトルデータの取得、(2)生体内血小板産生環境における細胞外基質特性解析 等を実施した。血小板産生前駆細胞である巨核球が生体骨髄の血管外から血管内に細胞質を出し、血流刺激下に血小板を産生する現象について、血管内を流れる大量の赤血球及び血管壁近傍を流れる血小板、血管壁との相互作用によって生じる物理刺激作用である“血流依存性のずり応力“が唯一の血小板産生起点として報告されている(Junt, Science, 2007)。一方、本研究課題では“血流依存性のずり応力“以外の特定の物理因子が働いて血小板産生が起きていることを、マウス骨髄の血管観察によって捉えることに成功した。さらに、新たに発見した物理条件のパラメーターに関し、その数値を再構成可能なバイオリアクターを選別した上で、生体データを基に一部を改変した。その結果、当該リアクターによる血小板産生は、静置培養時の血小板産生の約10倍の高効率を達成した。
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今後の研究の推進方策 |
今までの解析とその再構成系は、マウス骨髄血流、及び100mL, 1Lスケールでのバイオリアクターを用いた解析データであり、これらを実製造に応用するためには10L, 50Lスケールでの再現性を実証することが必須である。したがって、生体内の正常血小板製造での物理条件データと、100mL, 1Lスケールでの解析データとの相関を再度検証し、そのデータ条件を10L, 50Lまでのスケールアップに適用する妥当性を検証する。同時に、こうした物理条件がなぜ、高効率で正常機能をもつ血小板を産生可能なのか?巨核球細胞での分子機構の解明を進める。
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