研究課題/領域番号 |
15H03006
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
木村 敦臣 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (70303972)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 超偏極キセノン / MRI / 肺機能診断 / 前臨床評価 / 難治性肺疾患 / 新薬探索 / ピルビン酸エチル / 肺がん |
研究実績の概要 |
当課題において、連続フロー型完全偏極キセノン製造装置、および準完全偏極キセノンMRI肺機能診断システムの開発を終了した。このシステムを利用して慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺線維症など難治性肺疾患に対する前臨床評価を遂行し、新たな新薬シーズとしてピルビン酸エチル(EP)を見出した。EPの作用機序を調査したところ、炎症因子であるNF-kBの阻害を通じて傷害関連分子パターンであるHMGB1の発現を下方制御する事で、傷害組織の修復および肺機能の改善効果を示すと思われた。近年、NF-kBは癌微小環境の発現にも関与すると示唆されており、EPの作用機序によれば肺がん治療にも有効であると期待される。 一方、超偏極希ガスMRIは2015年1月から英国シェフィールド大学にて臨床応用が始まり、難治性肺疾患の機能診断に利用されつつある。しかし、早期肺癌における肺機能変化は乏しい上、特異度に欠けるため適用例は殆ど無いのが現状である。本課題が独自の技術により解決されたならば、新たな癌治療戦略の確立に向けて与えるインパクトは計り知れず大きい。そこで、今年度は、超偏極キセノンMRIにより肺がんモデルマウスの病態進行過程を追跡した。 マウスにウレタンを腹腔内投与して肺がんモデルを作出した。本モデルは5ケ月の期間をもって病態を形成するので、ウレタン投与後1か月毎に超偏極キセノンMRIにより肺機能変化をモニターした。肺機能の指標として、換気能(ra)とガス交換能(fD(%))を用いた。その結果、raは観察期間中健常群と同様の推移を示したが、fDにおいて1ヶ月時に有意な低下が観測された。この低下は観察期間中継続した。病理学的には2ヶ月時において肺腫瘍を認めたため、超偏極キセノンMRIは腫瘍形成前の病態変化を捉えられることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
準完全偏極キセノンMRIによる前臨床評価システムの開発に終了し、難治性肺疾患に対する新薬探索を問題なく遂行できた。この結果、ピルビン酸エチルの持つ炎症因子阻害に基づく広範な治療効果を見出し、慢性閉塞性肺疾患や肺線維症モデルマウスを用いて実証することに成功した。そこで、計画に加えて新たに肺がんを疾患として取り上げ、超偏極キセノンMRIによる肺機能診断を行ったところ、病態進行過程における特徴的な機能変化を捉える事に成功した。本成果は、他に類を見ない「超偏極MRI機能診断による新薬探索システムの開発と応用」を可能としたものであり、「超偏極技術の治療への応用」に向けて端緒を切り開くことができた。
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今後の研究の推進方策 |
準完全偏極キセノンMRIによる肺機能診断システムの開発と応用を終了したので、今後は「肺がん診断・治療への応用」を図る。これまで、慢性閉塞性肺疾患や肺線維症、肺気腫に対して前臨床評価を行った結果、ピルビン酸エチル(EP)を新薬候補として見出した。また、EPの示す組織修復と肺機能改善の発現機構として、NF-kB不活化とHMGB1シグナル伝達制御、ならびにERK活性化の協奏的関与が重要であることが示唆されたので、この知見に基づいて肺がんの診断・治療戦略の確立を目指す。上述の通り、肺がんモデルマウスは病態発症に先駆けて、特徴的なガス交換能低下を示す。この病態と癌微小環境との関わりを明らかとすべく、薬物治療を施して治療効果を観察する。
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