研究課題/領域番号 |
15H03010
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
床波 志保 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60535491)
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研究分担者 |
飯田 琢也 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10405350)
中瀬 生彦 大阪府立大学, 21世紀科学研究機構, 講師 (40432322)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バイオセンサ / 分子認識 / 細菌 / 細胞 / 分析化学 |
研究実績の概要 |
2年目の大きな成果として白血病細胞の一種であるCCRF-CEMを用いて作製した鋳型膜でCCRF-CEMをターゲットとして検出を行ったところ、他のミスマッチなターゲットをサンプルとして用いた場合に比べて8倍以上の高い選択性を達成した。また、検量線も得ることができ1000 cells/mL以下の希薄な場合における検出可能性も示唆した。また、細胞鋳型膜のシミュレーションにおいて、分子認識サイトの細胞上の場所や、細胞のサイズにばらつきがある場合でも特異的結合が起こり得ることを理論的に確認し、細胞鋳型の高選択性の機構解明における重要な知見を得た。さらに、光誘導とフロー系での適用を目指した検討を行い、細胞と同程度の大きさのビーズをレーザー照射点近傍にトラップできることを確認し、細胞への応用可能性を探っている。これらの成果は、血中循環細胞を対象とした吸着システムにおける、鋳型膜への細胞誘導における重要な知見と考える。 さらに、複数種類の細菌の表面構造を転写した混合細菌鋳型膜を電極上に設置した水晶振動子マイクロバランス(QCM)の周波数変化により、大腸菌の血清型の特異認識にも成功した。さらに、牛ミンチ、レタスなどの食品を対象とし、試料に含まれる大腸菌群の表面構造を転写した混合細菌鋳型膜による実試料分析にも成功した。また、紫外光(UV)、加熱、抗生物質によりダメージを与えた細菌に関して、正常細菌を用いて作製した鋳型膜での検出を試みた。結果として、表面にダメージを与えるUV処理と加熱処理の場合は周波数変化が非常に小さく、ダメージを与えずに膜透過する抗生物質の場合は正常細菌と同程度の周波数変化が見られることを確認した。これは、細菌の表面化学構造と鋳型中の分子認識サイトを仮定した前年度の粗視化モデルでの理論解析との整合性を示す結果であり、鋳型膜による特異検出の物理化学的な機構解明にむけた重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績の概要でも述べたように、CCRF-CEMを用いた細胞鋳型膜による特異検出において、非常に高い選択性が得られることを解明し、1000 cells/mL程度の希薄な場合でも誤差が小さく高感度検出ができたことは非常に大きな進展である。さらに、理論解析においても、細胞の表面化学構造の位置揺らぎやサイズ揺らぎを想定した場合であっても鋳型膜に転写された分子認識サイトとの特異的結合が得られることを示唆する結果も得ている。また、フロー系への適用の前段階として、細胞と同程度の大きさのポリマービーズにレーザ照射をして光誘起力により高効率に誘導できる可能性も明らかにしており、最重要課題であった血中循環細胞の光誘導型吸着システムの実現のための知見が得られたことも特筆すべきである。また、実績の概要でも述べたように細菌鋳型の物理化学的特性の解明においても、実験と理論の良い対応関係を示す結果が得られ始めており、論文を投稿中である。また、細菌の光誘導トラップに関しては国際会議・国内学会において計2件の受賞があった点も付記する。これらの例が示すように細胞・細菌のいずれの標的においても当初予想していなかった興味深い成果も得られ始めており、計画以上に進展していると自己評価している。 [1]The Second Place Award (2016 4th TKU-OPU Joint Symposium) (2016/11/20-21, Tamkang University, Taiwan) 受賞論文:“Bacterial trapping Using Photothermal Convection” 著者:Sinya Kurita, Yushi Nishimura, Yasuyuki Yamamoto, Olaf Karthaus, Takuya Iida, Shiho Tokonami [受賞者:Sinya Kurita] [2]若手優秀ポスター賞、第76回分析化学討論会(2016年5月, 於:岐阜薬科大学) 受賞論文:「光発熱集合法を用いた細菌数の迅速定量分析」、著者:山本靖之、清水恵美、西村勇姿、床波志保、飯田琢也 [受賞者:山本康之]
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今後の研究の推進方策 |
(1) 鋳型膜作製の最適条件探索と病原性細菌・腫瘍細胞の検出システム開発 前年度の成果を受け、引き続き細菌鋳型膜および細胞鋳型膜の作製のための最適条件探索を行う。特に、初期に使用していたCCRF-CEM以外の複数の白血病細胞における鋳型膜作製の最適化を目指すと同時に、光トラップによる鋳型膜への誘導についても検討し、検出システム開発のための知見獲得を目指す。 (2) 細菌・細胞の表面構造を転写した鋳型膜の選択的トラップ過程、および形成過程解明 物理的・化学的ダメージを与えた細胞を、CCRF-CEMの鋳型膜で検出することで、表面構造の変化を実験的に評価しポリマー膜による検出機構の解明を目指す。さらに、鋳型膜中に形成された細胞の表面化学構造を転写した空孔内部を共焦点顕微鏡で3 次元観測を行い、細胞の選択的トラップ過程の解明も目指す。また、電解重合時に細菌や細胞が電場の下で取り込まれて形状を反映した鋳型膜が形成される過程についても、分子認識を考慮した誘電泳動理論と動的モンテカルロ法を融合して解明を目指す。 (3) 流体シミュレーションと血中循環腫瘍細胞の選択的吸着用透析膜の開発に向けた検討 毛細血管と同程度の数百μm程度の太さの流路中での細胞の鋳型膜への光誘導の実験に着手する。特に、予備実験として細胞と同程度の大きさのマイクロビーズを対象とした光トラップに関する検討を行い、実際の細胞を用いた場合の光誘導型透析膜の開発に向けた知見の獲得を目指す。また、レーザー照射により生じる流れに関するシミュレーションも検討し、実験へのフィードバックを図る。
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備考 |
受賞(2件)・The Second Place Award(2016 4th TKU-OPU Joint Symposium)・若手優秀ポスター賞(第76回分析化学討論会) メディア発表(新聞1件, Web5件, プレスリリース2件)・日刊工業新聞・オプトロニクス・@engineerなど
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