研究課題/領域番号 |
15H03013
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
有本 英伸 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 電子光技術研究部門, 主任研究員 (50344198)
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研究分担者 |
田中 信治 広島大学, 病院(医), 教授 (00260670)
香川 景一郎 静岡大学, 電子工学研究所, 准教授 (30335484)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 自家蛍光 / 蛍光スペクトル / 腫瘍検出 / イメージセンサー |
研究実績の概要 |
組織の悪性腫瘍部位と正常腫瘍部位ではそれぞれの代謝状態の違いから、組織中に存在する補酵素(NADH, FAD)の濃度バランスが異なることが知られている。補酵素の濃度バランスを自家蛍光スペクトルから推定することで悪性腫瘍部位と正常部位の判別をする技術を開発することが本研究の目的である。
1年目は手術で切除した粘膜組織の表面付近の自家蛍光スペクトルを計測し、代謝の指標となる値であるREDOX値を導出して悪性腫瘍判別を行った。判別結果はほぼ良好であったが、より正確な判別を実現するためには組織の深さ方向のREDOX値も勘案すべきと考えられるため、2年目は切除組織の表面から深さ方向へ走査計測を行った。計測するための光学系は共焦点型の自家蛍光分光計であり、独自開発の高感度イメージセンサーと組み合わせて微弱な自家蛍光スペクトルの計測を可能とした。光学系は自己設計の可搬型であり、産業技術総合研究所および静岡大学において製作し、広島大学病院へ搬入して計測実験を行った。
深さ方向へは10マイクロメートルステップで20点で、組織表面から深さ200マイクロメートルまで自家蛍光スペクトルを計測した。切除組織ごとに、医師の目視で判別が可能な腫瘍部と正常部で計測を行った。この結果、症例ごとに腫瘍の深さが異なることからREDOX値の深さ方向へのプロファイルは切除組織ごとに相違があることが明らかになった。ただし、多くの組織においておおむね100マイクロメートル前後の深さでREDOX値が急峻に変化することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目には組織表面における2次元的なREDOX値分布を計測し、腫瘍判別精度を検証することを目標としていたが、これはほぼ計画通りに達成できた。2年目はこれを受けてREDOX値の計測を3次元的に拡張することを目標としていたが、独自設計の共焦点型自家蛍光分光計を製作して計測を行い、2年目の目標もほぼ計画通りに進捗した。
2年目である28年度は広島大学病院において2回の計測実験を行ったが、当初の予測よりも組織サンプルごとのREDOX値分布が多様であったために症例ごとの特徴を分類できるほどまでのデータは蓄積できなかった。医療現場における実測は手術スケジュールや症例の有無にも大きく依存するために短期間で多数のサンプルデータを蓄積することが困難であるため、引き続き時間をかけながらデータの収集に努めたい。
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今後の研究の推進方策 |
3年目となる29年度は、補酵素の自家蛍光スペクトル計測に加えて、蛍光寿命計測を実施することで、悪性腫瘍の判別精度を向上させる試みを行う。蛍光スペクトルの計測を行う際に、ターゲットである補酵素だけでなく粘膜下層に存在するコラーゲンの自家蛍光も同時に検出してしまい、REDOX値の決定精度が落ちることが1年目の研究から判明した。したがって、ターゲットである補酵素濃度とコラーゲン濃度を可能な限り分離する原理開発を目指す。
補酵素の自家蛍光は極めて微弱であるため、高い時間分解能で蛍光寿命を計測するのは既存のイメージセンサーでは困難である。そこで、静岡大学において開発された高感度高時間分解イメージセンサーを本研究用に最適化チューニングして補酵素の正確な濃度推定のために投入する。
光学系構築は引き続き産業技術総合研究所および静岡大学において実施し、腫瘍サンプルの計測は広島大学病院で行う。REDOX値および蛍光寿命計測の両結果から腫瘍判別を行い、その結果を工学的、医学的見地から評価する。
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