研究課題/領域番号 |
15H03018
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
塙 隆夫 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 教授 (90142736)
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研究分担者 |
堤 祐介 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 准教授 (60447498)
土居 壽 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 助教 (30251549)
陳 鵬 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 特任助教 (70708388)
蘆田 茉希 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 助教 (50708386)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ジルコニウム合金 / 生体材料 / 低磁性 / MRIアーチファクト / 合金組織 / 機械的性質 / 熱処理 |
研究実績の概要 |
磁気共鳴画像診断法(MRI)は放射線被爆を伴わない非侵襲の画像診断法であり、頭蓋部、特に脳底の病変の診断には不可欠である。しかし,磁気に反応する高磁性体の金属が体内に存在するとMRI画像に歪みや欠損などのアーチファクトが生じる。インプラントとその上部構造や歯科矯正装置などの歯科用金属材料は,形態や大きさ,材料の組成が多様であり、アーチファクトの影響とこれに対する明確な対応策は確立されていない。本研究の目的は、歯科治療によるMRIアーチファクトへの影響範囲と強度に関する多角的・総合的分析を行い、アーチファクト抑制効果を示す新素材金属材料の開発と応用を含めた包括的なガイドラインを確立することである。 本年度は、大量溶解および熱間鍛造によって作製したZr-14Nb-5Ta-1Mo合金に対して冷間スウェージング加工や熱処理を施し、機械的性質や磁化率に及ぼす影響について調べた結果、大量溶解、熱間鍛造、熱間鍛造後の熱処理後の機械的性質、組織、磁化率の評価を終え、下記の結果が得られた。 1. どの試料も主相はベータ相であり、わずかにアルファ相とオメガ相を含むことがわかった。2. 冷間加工によって、引張強さが増加し、97%加工材では1054 MPaの高い引張強さと16%の大きい破断伸びが得られた。これは加工による転位強化と結晶粒微細化によるものだと考えられる。3. 熱処理によって高い引張強さが得られたが、破断伸びが約1/2に小さくなった。また磁化率は最小となった。これは熱処理によって析出したオメガ相の析出に起因すると考えられる。4. ヤング率は加工や熱処理によって大きな変化はなく、低い値が維持された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金属材料の性質を支配するのは、平衡結晶相よりは準安定相の存在と転位との関係であり、これらの関係の解明および理想的組織を得るための製造プロセスの研究なくして、新合金開発を行うことはできない。本研究では、①計算状態図およびd電子合金設計理論による多元系Zr合金の組成設計、②Zr合金の溶製、結晶組織、機械的性質、磁化率、耐食性、表面組成の評価とその関係解明に基づく組成の絞り込み、③熱処理と加工が結晶組織、機械的性質、磁化率、耐食性に及ぼす影響の解明、④細胞毒性、細胞機能性の評価による医療用としての性能確認、⑤動物埋入によるアーチファクト体積の評価を実施し、Zr合金に関する体系的知識を獲得することで、Zr合金系の学術構築を行う予定である。 本年度は、大量溶解および熱間鍛造によって作製したZr-14Nb-5Ta-1Mo合金に対して冷間スウェージング加工や熱処理を施し、機械的性質や磁化率に及ぼす影響について調べた結果、大量溶解、熱間鍛造、熱間鍛造後の熱処理後の機械的性質、組織、磁化率の評価を終え、下記の事項が明らかになり、おおむね順調に進捗している。 また、97%加工材において、高強度・高延性、低磁化率・低ヤング率のバランスが最も優れていた。したがってZr-14Nb-5Ta-1Mo合金は97%冷間スウェージング加工を施すことにより高強度・高延性、低磁化率・低ヤング率を示し、新たな医療用材料として実用できる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、最終年度であるので、下記の研究を実施し、合金の実用化を目指す。 研磨直後およびアノード分極後のZr合金表面を、X線光電子分光(XPS)によって解析し、数nmの極表面の組成と化学的状態を明らかにする。この耐食性および電気化学的性質の評価結果と表面分析の結果を総合的に解析することによって、耐食性と表面反応性およびその発現機構を明らかにする。 合金成分となるZr、Nb、Mo、Ta、Ti試験片をリン酸イオンとカルシウムイオンを含有する擬似体液、どちらかのみを含有する擬似体液に浸漬して、表面組成・状態の変化をXPSで解析する。合金成分となるZr、Nb、Mo、Ta、Tiをリン酸イオンとカルシウムイオンを含有する擬似体液、どちらかのみを含有する擬似体液中でカソード分極を行い、表面酸化物の安定性、保護性を明らかにする。上記の結果から、合金構成元素が耐食性、生体活性に与える影響について明らかにする。 細胞培養設備、蛍光顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、リアルタイムRT-PCRによって、Zr合金上で線維芽細胞、骨芽細胞などを培養したときの、細胞増殖、細胞接着、遺伝子発現を評価し、医療用として適用の可否を判断する。 上記でスクリーニングされた組成の医療用デバイスを模した形状をZr合金で作製し、動物に埋入し、MRI撮像し、アーチファクト体積を評価する。
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