我々哺乳類の脳は損傷しても再生しない組織の代表例として知られているが、潜在的な再生能を秘めていることが最近の研究で明らかにされつつある。したがって、損傷した脳の再生医療の実現化には、脳の潜在的再生能を知り、発揮させることが重要である。申請者らはこれまでに、細胞外マトリックス(ECM)ラミニンを材料にスポンジ型材料を作製し、損傷脳への移植で、ニューロンを損傷領域に配置させる技術を開発してきた。本研究では、人工足場を利用することで、脳の潜在的再生能を明らかにし、その潜在再生能を発揮させることを目的とした。本年度は血管誘引能を持つスポンジ型材料を作製するために、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)がスポンジ表面から徐放するスポンジ型材料を作製した。具体的には、VEGFのC末端にヒスチジンを付加し、細胞の足場となるスポンジ材料にコバルトイオンを結合させ、金属イオンとの配位結合によってVEGFをスポンジ材料に固定化した。作製したVEGF徐放性ラミニンスポンジの血管新生能を評価するために、脳梗塞モデルマウスの大脳皮質にVEGF徐放性ラミニンスポンジを移植したところ、ラミニンスポンジのみの対照群や、溶液状のVEGF投与群に比べて、血管内皮細胞マーカーであるCD31陽性細胞がスポンジ材料内で顕著に認められ、VEGF徐放性ラミニンスポンジが生体内で血管新生能を持つことが明らかとなった。来年度は血管新生に伴う損傷脳の形態および機能的再生の有無を評価するとともに、損傷脳再生へと導く人工足場の作製も行う。
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