研究課題
平成28年度は、再生型心臓弁の作製条件について条件検討を実施し、シルクフィブロイン(SF)とカーボネート系合成高分子(PC)のブレンドによる複合化シートの作製に至った。作製方法としてエレクトロスピニング法によりSF/PC複合化シートを作製することができ、また、SFとPCの複合化量を調節することでナノサイズの繊維から成る形態を維持することを見いだした。さらに、天然高分子であるSFと合成高分子であるPCの間に相分離は生じておらず、また、固体NMR法による解析から、複合化後もSFのβシート構造を形成していることが明らかとなった。得られたSF/PC複合化シートの38℃水中における動的粘弾性測定の結果、SF/PC複合化シートは貯蔵弾性率、損失弾性率ともにPC濃度依存的に低下し、ネイティブの心臓弁と同程度であることを確認した。また、拍動下における耐久性を評価するためのモデル流路を作製し、人工心臓弁の加速劣化試験を実施したところ、SF/PC複合化シートは右心室系にかかる血圧に耐え得る耐圧性を備えていることを示した。さらにIn vivo評価として、マウス腹腔内へ埋植したSF/PC=50/50のSF/PC複合化シートによる炎症性の評価を行った。その結果、埋植後2週目に於いては軽度の炎症性細胞浸潤が確認されたが、経時的な炎症抑制が示された。さらに、シート周囲の膠原線維厚も経時的な減少が確認された。以上の結果から、PCとSFの複合化により炎症や瘢痕化の抑制に働きかけていることを明らかとした。次年度よりは足場材料の組織再生型人工弁への応用に向け、拍動モデル流路におけるの耐久性の検証を継続的に行うと共に、また、大動物を用いた実験による弁機能や足場材料内での組織再生の検証を実施する予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題は初年度に2種のサブテーマを設定し、研究を実行した。研究課題(Ⅰ)と設定した「弁膜に必要な力学的性質・分解性の付与」に関しては、エレクトロスピニング法による弁膜作製を最も有力な作製法と設定し、条件の最適化を行った。さらに平成28年度の検討により、SF/PC複合化シートが物性や生体適合性の面から心臓弁に適した材料であることを見いだした。しかしながら分解性に関しては検討が必要である。分解性制御およびNMR法による劣化解析については、最終年度の重点項目として掲げ、徹底的な解析を実施する。研究課題Ⅱとして設定した、「課題(Ⅱ)移植後弁膜が穏やかに吸収し、組織再生する人工心臓弁の創製」に関しては、マウス腹腔への埋植実験を実施し、炎症性や瘢痕化の抑制に加え、石灰化抑制を示唆する結果も出ている。In vitroにおいて、これらの機序の詳細な検討を開始しているが、実験系の確立に若干時間を要した。平成29年度において重点的に実施する予定である。また、大動物への埋植実験については費用がかかることもあり保留としていたが、実施する方向で進めている。以上より、本研究の進捗状況は概ね順調に推移しており、研究課題終了時には当初掲げていた、弁膜に必要な力学的性質・分解性の付与、および、組織再生する人工心臓弁の提案を行う事ができる見込みである。
昨年度は、心臓弁の機能不全の詳細を明らかするため、拍動下のモデル流路を作製し、人工心臓弁の加速劣化試験を実施した。また拍動下での弁膜の物性変化や構造変化について経時的に追跡することができた。。今年度は前年度に引き続き、改変型シルクフィブロイン人工心臓弁の継続的な検討を実施する。これまでの検討により、シルクフィブロインにカーボネート系合成高分子を複合化することで物性制御が可能であることを見出したが、分解による経時的な材料の硬化が一部確認された。固体NMR法により詳細な分解過程を解析するとともに、物性値との相関について検討する。また得られた知見を基により最適な材料の作製を試みる。物性評価については、モデル流路での検証を主として行い、研究計画にあった、損失水頭、弁圧格差などによる劣化原因探索のための弁膜の流体特性解析については、必要に応じて委託や共同研究により検証を行うこととする。以上を総合的に検証し、人工心臓弁の経時的な分解特性と物性変化を定量的に把握する。また、ヒツジを用いた弁置換術を実施する。移植実施施設は、徳島大学および米国オハイオ州ネイションワイド小児病院の協力を得て、民間の医療評価実験施設を利用して行う。評価方法は、超音波経食道エコーを中心に弁機能の評価、組織学的評価に加え、摘出した心臓弁の物性や劣化状態を詳細に解析し、今後の人工心臓弁への適用についてまとめ、一連の研究を終了する。以上のように、軽微な研究計画の変更はあるものの、全体的な研究推進方策については問題ない。
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