研究課題
平成27年度は(一部平成28年度に繰越後に終了)、ヒト ES/iPS 細胞の自己複製に関与するシグナル経路と転写ネットワークの解析を行った。複数の培養条件で培養したヒトES細胞を用いRNAseqによる網羅的遺伝子発現の比較解析とパスウェイ解析、ネットワーク解析から、ヒトES/iPS細胞の自己複製のハブと考えられるシグナル経路群を同定した。これらから、bFGFとTGFβ依存的培地と我々が見出したこれらにbFGFとTGFβに非依存でDYRKとGSK3阻害剤依存的培地で培養した細胞間では、予測通り、未分化性維持に必須とされる転写因子やネットワークには違いが見られず、naiveと呼ばれるマウスの多能性幹細胞様細胞に特異的な転写因子の発現上昇が見られることが分かった。しかし予想に反して、最も違いが見られたのは解糖系の代謝系が抑制されていることであった。そこで代謝経路とその活性を解析したところ、DYRKとGSK3阻害剤依存的培地で培養した細胞では、bFGFとTGFβ依存的培地で培養した細胞に比べ、解糖系は抑制されているものの、好気的代謝は違いが見られないことが分かった。また一方で、生化学的解析では、DYRKファミリーのうちDYRK2/3/4ではなくDYRK1a/bが特異的に神経分化抑制に働いていることを見出した。カルシニューリン経路の解析では、予測通り、カルシニューリン経路のうちAKT経路ではなくNFATc経路が特異的に増殖に関わっていることを見出した。しかし意外にも、その下流で制御されている経路は細胞分裂よりも主に代謝経路であること推測されることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度では、採用予定であった実験補助員が本人の都合で辞退せざる負えなくなり、連携研究員2名もそれぞれ研究機関からの離職と自国の研究機関への昇進が急遽決定したため研究に参画できなくなった。このため、同様のスキルを持つ実験補助員および研究協力者を確保する必要が生じた。その後優れたスキルを持つ人員を確保できたため、飛躍的に研究が進み、ほぼ遅延を取り戻すことができた。平成27年度に予定でしていたChIP解析のみ平成28年度初頭まで持ち越したものの、平成27年度に予定していたほぼ全ての研究を遂行できた。
平成27年度に実施したRNAseqによる網羅的遺伝子発現解析とパスウェイ解析、ネットワーク解析から、ヒトES/iPS細胞の自己複製のハブと考えられるシグナル経路群を同定した。また、これら経路のうちDYRK2/3/4ではなくDYRK1a/bが特異的に神経分化抑制に働いていること、カルシニューリン経路のうちAKT経路ではなくNFATc経路が増殖に関わっていること、通常の細胞と異なり好気的代謝経路も使用して増殖を行っていること等も確認できた。平成28年度は、これらの得られた知見を基に、以下の研究を行う。1. 化合物の収集と合成平成27年度に解明・推定されたシグナル経路を制御可能な市販もしくは発表済の化合物を収集する。収集できない経路については、その経路のハブとなる分子について、研究協力者に化合物の合成・合成展開を依頼し、その特性・効果を確認する。2. 化合物スクリーニングと自己複製シグナル経路の同定申請者が既に作製済の未分化細胞特異的に緑色蛍光タンパク質を発現するレポーター遺伝子(OCT4-GFP)導入ヒトES株とその他のヒトES細胞株、iPS細胞株を用いて、1.で収集した化合物のライブラリをGFPや未分化マーカーの発現と細胞増殖を指標にスクリーニングを行う。スクリーニングでポシティブな化合物については必要であれば、研究協力者に合成展開を依頼し、より特異性の高い化合物を合成し、更なるスクリーニングを行う。化合物有無の条件下で、下流遺伝子発現やタンパク質発現、タンパク質修飾、表現型や代謝経路の解析を行いシグナル経路の同定に挑戦する。
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