研究課題
本年度は、pH応答性高分子の構造を最適化することでその抗原デリバリー機能を高めるとともに、アジュバント分子を導入することで、免疫誘導と活性化を同時に実現する高活性抗原キャリアシステムの設計を行った。さらに、免疫抑制状態を解除する低分子薬剤を包埋したリポソームの併用によって、免疫誘導機能の向上に成功した。また、ヒト由来がん抗原ペプチドを用いても抗原特異的な免疫の誘導に成功した。微生物由来多糖であるカードランやマンナンを用いてpH応答性高分子を合成し、デキストランや、合成高分子であるポリグリシドール誘導体との比較を行ったところ、カードラン誘導体を修飾したリポソームが、樹状細胞へ特に効率良く取り込まれ、封入した抗原タンパク質を細胞質にデリバリーした。また、より疎水性の高いpH応答官能基を多糖に導入することで、リポソームの取り込み量を10倍以上増加させることができた。これらの多糖誘導体修飾リポソームを担がんマウスに皮下投与したところ、脾臓において抗原特異的な細胞傷害性T細胞が誘導され、抗原を発現した腫瘍が縮退した。また、pH応答性高分子修飾リポソームに、カチオン性脂質や、トル様受容体リガンド(CpG-DNAなど)を複合化すると、その免疫誘導機能が向上することが分かった。また、免疫抑制に関わるTGF-βシグナルを阻害する低分子薬剤であるSB505124を包埋したリポソームを、pH応答性高分子修飾リポソームと併用すると、腫瘍内に大量の細胞傷害性T細胞が誘導され、抗腫瘍免疫が増強された。さらに、モデル抗原タンパク質だけでなくヒト由来がん抗原ペプチドを封入したリポソームを用いて、ヒト樹状細胞への抗原デリバリーに成功した。抗原ペプチド封入リポソームの検討においては、ThおよびCTL誘導に最適なリポソームの組成を探るため、マウスを用いた比較免疫実験を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は、pH応答性高分子の構造最適化による抗原デリバリー機能の向上と、アジュバント分子の複合化による免疫活性化機能の向上を目的として検討を行った。微生物由来の多糖であるカードランを主鎖とするpH応答性高分子を修飾したリポソームによって、樹状細胞に最も効率良く抗原をデリバリーすることができた。さらに、CpG-DNAなどのアジュバント分子の組み込みによって、その免疫誘導機能の増強にも成功している。平成28年度に予定していた、免疫抑制状態を解除する低分子薬剤を包埋したリポソームとの併用についても検討を行い、pH応答性高分子修飾リポソームとの併用によって、腫瘍内に大量の細胞傷害性T細胞が誘導され、抗腫瘍効果が高まることを明らかにした。低分子薬剤包埋リポソームを尾静脈投与した時、特に高い免疫誘導機能が得られている。この現象の詳細なメカニズムは明らかになっていないが、免疫抑制解除試薬によって、制御性T細胞などの免疫抑制細胞が排除された結果、細胞傷害性T細胞を中心とする細胞性免疫の活性化状態が維持されたものと考えられる。このように、本年度予定していた実験がほぼ完了したことに加えて、平成28年度に予定していた実験にも取り掛かっており、当初の計画以上に進んでいる。
平成27年度において、抗原のデリバリーに適したpH応答性高分子の構造を最適化するとともに、アジュバント分子導入の検討、および免疫抑制解除試薬との併用についても検討を行った。これら個々の実験によって、それぞれ高い抗腫瘍免疫の誘導に成功している。平成28年度以降は、これら個々の抗原デリバリーシステムを、一つに統合した免疫誘導システムの構築を目指して検討を進める。具体的には、pH応答性高分子修飾リポソームに様々なアジュバント分子を導入し、その組み合わせと免疫誘導機能との関係について明らかにする。また、免疫抑制解除試薬との併用に関しては、その免疫誘導メカニズムが明らかになっていないため、免疫抑制解除試薬の投与が、制御性T細胞の抑制や、細胞傷害性T細胞の活性化状態に及ぼす影響について調べる。その上で、アジュバント分子を組み込んだ抗原封入リポソームと併用することで、強力な抗腫瘍免疫の誘導を目指す。このようにして最適化した免疫誘導システムについて、モデル抗原タンパク質だけではなく、実際のがん抗原ペプチドを用いた検討を進める。具体的には、ヒト型のMHC分子を発現するトランスジェニックマウスに、ヒト腫瘍抗原ペプチドを封入した抗原キャリアを投与して、抗原特異的な免疫誘導について調べるとともに、免疫治療実験を行い、本免疫誘導システムの有用性・実用性を明らかにする。
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