研究課題
「バイオマテリアル」は人工材料であるため、免疫による拒絶がほとんど生じないことがメリットの一つであった。しかしながら、もし材料が積極的に免疫系に働きかけ、免疫細胞(ナチュラルキラー細胞(NK細胞), T細胞など)を活性化することができれば、現在、がんの治療法として注目されている「養子免疫療法」に新機軸を提案できる。我々はこれまでに免疫系に作用するバイオセラミックス(イムノセラミックスと定義)の試製に成功している。このイムノセラミックスとマウス由来脾臓細胞とを共存培養すると、免疫細胞中のT細胞の比率を増加させるとともにNK細胞が活性化することを明らかにしている。平成28年度は、これまでに得られている知見を足掛かりとして、新規なイムノセラミックスの創製とその機能評価を推進した。具体例を挙げると、BO2基をもつホウ素含有アパタイト(BAp)セラミックスが免疫賦活効果を有するという知見に立脚し、ゾル-ゲル法によりCa/P比を1.67, 2.00および2.50に変化させた3種類のCaO-P2O5-SiO2-B2O3(CPSB)系ガラスセラミックスを作製した。すべての試料においてアパタイト相の存在が確認され、FT-IRスペクトルの結果からBApが生成していることがわかった。これらのセラミックス上で脾臓細胞を培養したところ、ヘルパーおよびキラーT細胞の割合が増加した。さらに、SEMによる観察結果から、球状の細胞が基材上へ接触しており、免疫染色によりT細胞の表面マーカーであるCD3を発現した細胞が基材上に存在していることが観察された。T細胞の増加は細胞がセラミックスに接触し、BApのBO2基が糖鎖認識部位として作用したためであると考えられる。以上の結果より、CPSB系ガラスセラミックスは免疫賦活効果を有しており、免疫療法に有用な新規な「イムノセラミックス」として期待できる。
2: おおむね順調に進展している
本提案では、以下の4つの課題: 1) 免疫系に積極的に働きかけるイムノセラミックスの作製条件の最適化、2) イムノセラミックスの免疫機能発現メカニズムの解明、3) イムノセラミックスとラジアルフロー型バイオリアクター(RFB)を利用した免疫細胞の効率的な増殖・活性化プロセスの構築、4) 免疫系に積極的に働きかける新規材料の探索とその検証を併行して進める計画である。H28年度は、新規材料探索として、ゾル-ゲル法によりCaO-P2O5-SiO2-B2O3系結晶化ガラスを試製し、免疫系に働きかけるホウ素含有アパタイトを優先的に析出する調製条件を明らかにし、その免疫賦活効果を確認している。この研究成果をWorld Biomaterials Congress 2016 (WBC2016)などで口頭発表している。また、前年度に得られた知見であるIP6-HApセラミックスの免疫賦活効果を高めるため、免疫細胞の活性化に及ぼす表面粗さの影響を調べ、表面が粗い試料片の方が免疫細胞が活性化されることを明らかにしている。以上の所見より、ほぼ当初のマイルストーン通りに研究が進行していることから、「(2)概ね順調に進展している」を選択している。
本研究の目的は、免疫系に積極的に働きかける「イムノセラミックス」を創製し、その機能発現メカニズムを解明するとともに、医学応用を見据え、免疫細胞の効率的な増殖・活性化プロセスを構築することである。そこで、本提案では、以下の手順:1) 免疫系に積極的に働きかけるイムノセラミックスの作製条件の最適化、2) イムノセラミックスの免疫機能発現メカニズムの解明、3) イムノセラミックスとラジアルフロー型バイオリアクター(RFB)を利用した免疫細胞の効率的な増殖・活性化プロセスの構築、4) 免疫系に積極的に働きかける新規材料の探索とその検証により研究を推進する。まず、1)でこれまでの研究成果をもとにイムノセラミックスのモデルとなる二つの材料(BApおよびIP6-HApセラミックス)を試製し、その免疫機能を最大限に引き出す作製条件を明らかにする。2)では、イムノセラミックスの機能発現メカニズムを解明し、材料創製へのフィードバックをかける。3)では、医学応用を見据え、免疫細胞の効率的な増殖・活性化プロセスを構築する。さらに、4)では、BApおよびIP6-HApセラミックスを越える優れた免疫賦活効果を備えた新規材料の探索と検証を行なう。H29年度は、最終年度であるため、RFBへの適用を視野に入れ、多孔質HApセラミックスへのIP6処理による免疫賦活効果の付与や新規材料として期待されるCaO-P2O5-SiO2-B2O3系結晶化ガラスの免疫細胞応答性を精査する。また、研究分担者と協力して、免疫細胞と材料との相互作用の観点から、免疫学的な評価を実施し、イムノセラミックスの免疫機能発現メカニズムにつなげる。
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