研究実績の概要 |
バイオマテリアルは人工材料であるため、免疫による拒絶がほとんど生じないことがメリットの一つであった。しかしながら、もし材料が積極的に免疫系に働きかけ、免疫細胞(ナチュラルキラー細胞(NK細胞), T細胞など)を活性化することができれば、現在がん治療法として注目されている「養子免疫療法」に新機軸を提案できる。 我々はこれまでに免疫系に作用するバイオセラミックス(イムノセラミックスと定義)の試製に成功している。このイムノセラミックスとマウス由来脾臓細胞とを共存培養すると、免疫細胞中のT細胞の比率を増加させるとともにNK細胞が活性化することを明らかにしている。 平成29年度は、これまでに得られている知見を足掛かりとして、免疫系に積極的に働きかける新規なイムノセラミックスを創製するとともに、その機能評価を推進した。具体的には、BO2基をもつホウ素含有アパタイト(BAp)セラミックスが免疫賦活効果を有するという知見に立脚し、ゾル-ゲル法によりCa/P比を1.67, 2.00および2.50に変化させた3種類のCaO-P2O5-SiO2-B2O3系セラミックスを作製し、その免疫細胞応答性を調べた。すべての試料片においてBAp相の存在が確認された。これらのセラミックス上で脾臓細胞を培養したところ、ヘルパーおよびキラーT細胞の割合が増加した。これは免疫細胞が基材上へ接触し、材料からの免疫刺激を受けたためと考えられる。そこで、トランズウェルを用いて、試料片と細胞を接触させずに培養実験を行なったところ、免疫細胞の賦活化はほとんど生じなかった。したがって、T細胞の増加は細胞がセラミックスに接触し、BApのBO2基が糖鎖認識部位として作用したためであると考えられる。 以上の結果より、CPSB系セラミックスは免疫賦活効果を有しており、免疫療法に有用な新規な「イムノセラミックス」として期待できる。
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