研究課題/領域番号 |
15H03040
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大野 ゆう子 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (60183026)
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研究分担者 |
木戸 倫子 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (00706913)
JEONG Hieyong 大阪大学, 医学系研究科, 特任研究員(常勤) (60744133)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ポジショニング / 非侵襲生体計測 / レジリエンス・エンジニアリング / 微妙さの計測 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
本研究はケアにおける「微妙さ」の定量化を目的としており、特にポジショニングについて、単に静止した状況ではなく動作の過程と広く捉え、コミュニケーションの難しい患者や感情の把握しにくい患者等も含めた対象者における安楽・安定・安全の検出について、(a)看護師、理学療法士等臨床の専門家がどのように見極めているのか、(b)それが工学的にどのように検出可能か、検討を進めている。初年度には、対象者の設定、注目する動作・ポジショニングケア、計測方法等について検討し、それを踏まえて今年度は主として以下のような研究を進めた。
(1)コミュニケーションの難しい患者や感情の把握しにくい患者における安楽状態の把握に関する研究:光音刺激時の患者の状況について、臨床専門家による詳細な時系列観察記録とWebカメラ等を用いた動作観察と生理学的記録とを照合することにより、情緒の変動を推察するアルゴリズム構築を行なった。その結果、同じ刺激でも感情の高揚状況について疾患により反応に違いが見られること、光音刺激の内容が楽しく刺激的なものと穏やかな雰囲気を目指したものとでも反応に違いが見られることなどが示唆された。同じ体位でも工学的な観察により安楽の状態を非接触・無拘束で把握できる可能性が見出された。
(2)安楽、安定した動作・ポジショニングの検出に関する研究:非接触・無拘束での動作観察結果から判別指標を考案し、その指標を用いて動作の安定性・巧緻性の評価を機械学習により検討した。その結果、提案した評価指標を用いた判別の正答率は実用的な値であり、今後症例を増やすことにより臨床的にも有効な判別論理を提案できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画では、倫理審査申請についてポジショニングケアに対する介入研究では承認が難しいと予想していたが承認を得ることが出来、臨床的に検討できた。意思や感情の把握が難しい患者に対する精神的安楽を目的とした光音刺激、感動や楽しさを喚起することを目的として開発された光音刺激イベント等の機会における生体情報計測が実施できた。 行動観察機器として高速度カメラ、Webカメラとともに非接触・無拘束で生理学的情報のモニタリングが可能となったことで、情緒反応を客観的に精密に計測できるようになり工学的アプローチの研究が大きく進んだ。 ポジショニングという患者の受け身的な状況から起立動作や起立支援動作まで、動きのある観察・解析が可能となり、興味深い知見が得られ始めた。 これらの結果を国際学会、学術誌にて発表を開始している。 以上から、次年度へ向けて、計画以上に進捗が見られたと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
我が国は高齢者急増社会であり、単身者急増社会でもある。従来の家人(他者)の目や手(労働力)を基盤とする保健医療福祉体制は継続困難であり、不足する目や手の代替、さらに発展的に解決する方法の検討を進める必要がある。 本研究では「目や手」に依存しているタスクプロセスの中でもポジショニングに注目し、ポジショニングにおける安楽・安定・安全の検出において(1)看護師、理学療法士等臨床の専門家がどのように見極めているのか、その「粋」の抽出を目的として研究を行い、(2)それが工学的にどのように検出可能か、非侵襲・無拘束でどのようにアプローチできるか、すなわち、ケアにおける「微妙さ」の定量化を検討する。 これまでの研究によって具体的になった課題解決の方向性を軸に、今後の「微妙さを測る」研究の発展的展開のための課題抽出を念頭におきつつ、以下の検討を進める。検討においては統計学とともに機械学習の手法を積極的に取り入れる。 1.ポジショニングにおける安定性と安楽の確認:心地よい姿勢や動作であることを生体計測等に基づく客観的データから評価する指標の検討 2.非侵襲・無拘束計測:「よろける」「怖い」など特定の状態を検出する方法の検討 3.レジリエンス・エンジニアリング:どの程度の状態で検出すれば臨床的に有効な支援となりうるかを専門家の集合知も導入して検討
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