研究課題/領域番号 |
15H03045
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
沖田 実 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(保健学科), 教授 (50244091)
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研究分担者 |
中野 治郎 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(保健学科), 准教授 (20380834)
坂本 淳哉 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(保健学科), 准教授 (20584080)
本田 祐一郎 長崎大学, 病院(医学系), 技術職員 (40736344)
佐々部 陵 長崎大学, 病院(医学系), 技術職員 (50710985)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 理学療法学 / 拘縮 / 責任病巣 / 前十字靱帯 |
研究実績の概要 |
今年度は,ラット膝関節屈曲拘縮モデルから採取した前十字靱帯を検索材料とし,拘縮発生時の変化を生化学・分子生物学的検索によって明らかにし,拘縮の責任病巣としての靱帯の関与の有無に関して検討した. 実験動物には12週齢のWistar系雄性ラット31匹を用い,これらを無作為に2,4週間両側股・膝関節を最大屈曲位でギプス固定する不動群(n=18)と,不動群と同週齢まで通常飼育する対照群(n=13)に振り分けた.そして,各不動期間終了後は両側から前十字靱帯を採取し,一部の試料に対しては抽出したRNAを基にreal-time PCR法を実施し,タイプⅠ・ⅢコラーゲンmRNA発現量を検索した.一方,試料の一部は生化学的検索によってコラーゲンタンパクの特異的構成アミノ酸であるヒドロキシプロリンを定量することで,コラーゲンタンパク量の変化を検索した. 結果,タイプⅠコラーゲンmRNA発現量ならびにタイプⅢコラーゲンmRNA発現量はいずれも不動2・4週後とも不動群は対照群より有意に低値を示したが,不動期間による変化は認められなかった.一方,コラーゲンタンパク量は不動2週後では対照群と不動群で有意差を認めなかったが,不動4週後は不動群が対照群より有意に低値を示した. 以上の結果から,前十字靱帯を構成するコラーゲンは遺伝子レベルでは不動2週後から,タンパクレベルでは不動4週後からその発現量が低下することが明らかとなり,このことは不動によって靱帯は脆弱化する可能性があることを示唆している.つまり,前十字靭帯はラット膝関節屈曲拘縮の責任病巣としてさほど重要な影響をおよぼしていないと推察される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで,拘縮に対する靱帯の関与については一定の見解が示されていなかったが,本研究の結果,不動によって前十字靱帯を構成するコラーゲンはturn overが崩れ,特に分解系が亢進する可能性が高いことが明らかとなった.つまり,このことは不動によって靱帯が脆弱化することを示唆しており,拘縮の主症状である関節可動域制限に対して靱帯の影響は少ないと推察される.よって,今年度の目的である拘縮の責任病巣としての靱帯の関与の有無に関してもおおむね結論が得られたと考えており,このことから現在までの進捗状況としては「おおむね順調に進展している.」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果を整理すると,関節周囲軟部組織の中でも皮膚,骨格筋,関節包が拘縮の責任病巣であり,しかも,これらの組織には共通して線維化と呼ばれる病態が生じることが明らかとなっている.そして,不動によって惹起される関節周囲軟部組織の線維化は低酸素状態の惹起が主な要因と考えられるが,この点についての実証データは乏しいことから,その収集を急ぐ予定である.また,低酸素状態の惹起によって発現する低酸素誘導因子(hypoxia inducible factor; HIF1-α)を拘縮の標的分子の第一候補と予測しており,今後はその阻害剤実験なども組み込み,上記仮説の検証を試みる予定である.
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