研究課題
本年度は順動力学アプローチにより歩行アシストシミュレーションをおこない,力学アシストによりヒト歩行がどのように変化するかを確認した.このシミュレーションとアシスト装置を用いた健常被験者によるアシスト実験結果との整合性を調べた結果,歩容に関して実験と整合している部分と整合しない部分があることがわかった.本研究は効果が高く,安全な力学的歩行アシスト装置を開発するため.アシスト装置が人歩行動作に与える影響を理論的および実験的に解明することを目的としている.そこで,比較的単純な力学モデルによりヒト歩行およびアシスト歩行を表現し,このモデルがヒト歩行,アシスト歩行を表現できることを実験的に確認すること,また,このシミュレーションを用いた,効果的なアシスト装置の設計指針確立と有効なアシスト制御手法を提案することを目指している.当該年度では2本倒立振子モデルに上体(体幹)を付けた,3リンクモデルを基本とする歩行力学モデルを作成した.このモデルを用い,床面衝突条件と適当な規範軌道に追従する制御則により,順動力学アプローチを用いて歩行シミュレーションをおこなった.また,アシスト力は実際のアシスト実験で経験的にわかっている,効果的と考えられるアシスト力を付加したうえで,歩行アシストシミュレーションを実現した.特に前年度までに問題となっていた不安定な歩行シミュレーションを解消することができた.これにより,アシスト効果のシミュレーションによりる検証や,効果的なアシスト力を得るための枠組みはある程度できたと考えられる.
3: やや遅れている
当該年度は具体的には,アシスト動力学モデルをラグランジュの方法により導出し,床面衝突条件により脚交換時の力学条件を与えて,継続歩行のシミュレーションをおこなった.このときトレッドミルにおける定常歩行,すなわち指定歩行速度固定の条件を用い,また,歩行消費エネルギーが小さくなるような規範的目標軌道を与えてPID制御側により股関節入力トルクを計算した.種々の指定歩行速度とアシスト力に対して歩行消費エネルギーと歩行速度および歩行比をこのシミュレーションと実験とで比較検証した.その結果,消費エネルギーは下に凸の傾向,すなわち適切な歩行速度と適切なアシスト力でエネルギー極小となることの整合性は確認できた.この歩行アシストシミュレーションにより安全で効果的なアシスト力の設計指針を得ることできるのが望ましい.このため,効果的なアシストという意味では,消費エネルギーを極小とする適切な歩行速度やアシスト力をシミュレーションで確認し,これにより効率的なアシスト制御手法に関する示唆を得ることがことができた.しかしながら,ヒト歩行で一般的に観察される歩行速度を変化させても歩行比はほぼ一定となる現象はシミュレーションでは十分には確認できなかった.
次年度では,当該年度で不十分であった,歩行比などヒト歩行の特徴を十分に再現できるよう力学シミュレーションの改良を試みる.具体的には,膝関節の効果を歩行力学モデルに導入することや,膝関節,股関節の非線形摩擦力の効果など,生体力学的視点からより現実に近い力学モデルを組み込むことを考える.さらに,高齢者と若年者では歩容が異なることが多いことや,筋力などの力学的特徴による影響をこれまで開発した歩行アシスト力学モデルに反映することを考える.さらにこのことを考慮した,高齢者等,年齢に応じた望ましいアシスト制御方法や,体形体格など個人により異なる特徴を考慮したアシスト方法の検討をおこない,より広範囲で安全・安定した歩行アシストが実現できるよう完成度を高める.また,今後はより多くの被験者で歩行アシスト実験をおこなうことを予定している.このため,当該年度では糸島市福祉関連部門と協力して特に高齢被験者を常時確保する体制を構築した.さらに,被験者のアシスト歩行実験や歩行アシスト体験スペースとして「ふれあいラボ」というサテライトラボを糸島市健康福祉センター内に開設した.今後,このラボを核として研究開発を一層推進する.さらに九州大学医学部整形外科の協力のもと,片麻痺の患者に対するリハビリテーション用途として,本アシスト装置が使用できないか,適用検討する予定である.
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
IEEE Transactions on Neural Systems and Rehabilitation Engineering
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DOI 10.1109/TNSRE.2016.2613886.
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