研究課題/領域番号 |
15H03066
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
田中 彰吾 東海大学, 現代教養センター, 教授 (40408018)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 身体性 / 人間科学 / 現象学 / 身体化された自己 / ミニマル・セルフ / 身体化された間主観性 / 間身体性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、新たに「Embodied Human Science(身体性人間科学)」の理論モデルを構想し、応用研究へと展開することにある。2017年度の主な成果は以下の通りである。 (1)本研究の成果となる単著を上梓した。『生きられた〈私〉をもとめて-身体・意識・他者』と題し、2017年5月に北大路書房から刊行された。この著作は、本研究で推進する身体性人間科学の枠組みのもとで、自己アイデンティティの問題を論じたものである。「自己を自己たらしめる究極の根拠」としてアイデンティティを問い直し、これに「身体・意識・他者」という三つの観点から答えることで議論を展開した。全編が本研究計画と関連するが、とくに「身体」および「他者」の観点から考察した箇所(第1部と第3部)は、本研究の核となる理論モデル(「身体化された自己」および「身体化された間主観性」)に対応する。なお、身体化された間主観性については、理論モデルを展開した英文の論文も2017年4月に『Theory & Psychology』誌に掲載された。 (2)本研究はもともと国際的な連携のもとでの研究活動を意図したものであるが、2017年度は、国際共同研究加速基金の助成を別途受けたこともあり、とりわけ国際連携に進展が得られた。具体的には、海外での招待講演2件、日本国内での国際会議(ISTP 2017)の共同開催1件、国際シンポジウムの主催1件、海外での国際会議の共同開催1件ときわめて活発に各国の研究者と連携しつつ研究発表の機会を設けた。また、ISTP 2017(第17回国際理論心理学会)の開催によって、300人程度の中規模の国際会議を開催するためのノウハウを日本の共同研究者と蓄積することができ、将来の国際会議開催に向けて貴重な布石を打つこともできた。本研究に近い分野における日本からの情報発信力の向上にも貢献したものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は、新たに「Embodied Human Science(身体性人間科学)」の理論モデルを構想し、応用研究へと展開することにある。2017年度は5年計画の3年目であり、次の3点を目標として設定した。(1)身体性人間科学の中核的なアイデアを単著としてまとめて出版する。(2)精神疾患等に見られる身体化された自己の異常について研究を進める。(3) ISTP 2017(第17回国際理論心理学会)を始めとする国際会議で研究成果を国際的に発信する。 (1)については、前項で述べた通り単著を出版することができた(『生きられた〈私〉をもとめて-身体・意識・他者』北大路書房,2017年5月)。本研究計画では、身体性を基礎として自己意識と他者理解を現象学的にとらえ直すことを大きな目標としているが、前者のキーワードを「ミニマル・セルフ」、後者のキーワードを「エナクティヴな間主観性」に置いて、単著のなかで理論的考察を展開した。(2)については、離人症性障害について扱った論文がまもなく『Journal of Consciousness Studies』誌に掲載される。この障害では、自己が身体から遊離しているとの経験が当事者の口からしばしば語られる。この報告内容を吟味し、身体所有感と主体感の二つの観点から考察したところ、身体所有感は極度に低下しているものの、主体感は行為開始時の局面では残存していることが明らかになった。(3)については、前項で述べた通り、当初目標としていたISTPの開催を無事に終えることだけでなく、他のシンポジウム開催や招待講演を実施するなど、計画以上に研究を推進することができた。とくに、2018年3月に東京で開催した国際シンポジウムは盛況であり、その成果を論文集として刊行する方向で計画が進展しつつある。 以上の理由から、「当初の計画以上に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は5年計画の3年間が経過した。順調に研究は進捗しており、成果も当初の予定以上にあがっている。2018年度は、次期の研究計画を見据えて本研究をさらに発展させる作業に取り組む。具体的な課題は以下の通りである。 (1)「精神疾患等における身体化された自己の異常」の研究に引き続き取り組む。離人症性障害に加えて、新たに対人恐怖症を研究する。対人恐怖症は、自己身体が他者に知覚される場面を引金として、激しい恐怖反応が引き起こされる疾患である。身体を介して「自己」および「自他関係」がきわめて不安定な状態に陥っていると言える。この点で、対人恐怖症は、「身体化された自己」「身体化された間主観性」を深く考察する手がかりとなる。 (2)先述した通り、2018年3月に東京で身体性をテーマとする国際会議「Body Schema and Body Image」を、イスラエルの若手研究者Y・アタリア氏と共同で組織した。この分野で世界を主導する哲学者S・ギャラガー氏(メンフィス大学教授)に基調講演者として登壇いただいたこともあり、7カ国から16人の発表者を集め盛況に議論を進められた。現在、アタリア氏、ギャラガー氏とともに、当日の発表内容にもとづく論文集を共同編集・出版する計画を進めている。今年度中に書籍全体を編成する段階まで作業を進めたい。 (3)本研究は、「Embodied Human Science」という名称のもとに、身体性に根ざした人間の存在様式を記述する研究を進めてきた。次の研究計画では、身体性がどのようにナラティヴ(物語)にもとづく人間理解に接続するのかを検討する。ナラティヴ研究は、心理・看護等の分野を中心に1990年代以降急速に進展しつつあるが、同じく90年代以降に進展した身体性中心の人間観とは今のところ接点が乏しい。両者を統合的に理解する理論構築に着手し、次期研究計画の構想を練りたい。
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