本研究の目的は、新たに「Embodied Human Science(身体性人間科学)」の理論モデルを構想し、応用研究を展開することにある。昨年度の主な成果は以下の通りである。 (1)英文での共著の刊行:本研究はもともと国際的な連携のもとでの研究活動を意図したものだった。2019年度は、(a)オールボー大学の共同研究者L・タテオ氏が編集した理論心理学の論文集に寄稿し、「反省」という心的経験の身体的基盤について解明する一章を発表した。また、(b)カリフォルニア大学の共同研究者O・ルチャコワ-シュワルツ氏が編集した宗教哲学の論文集に寄稿し、宗教的経験を身体性の観点から論じた一章を発表した。いずれも、「身体性人間科学」の目標を体現する内容になっている。 (2)単著の執筆:本研究で提示する「身体性人間科学」の根幹は「身体化された自己」「身体化された間主観性」という二つの概念にある。この両者について、運動学習、社会的認知といった具体的なトピックに沿って人間科学的考察を展開する『自己と他者』と題する単著を執筆した。認知科学・神経科学・発達科学など、トピックに関連する「心の科学」の知見を幅広く取り入れつつ、身体性の観点から理論的枠組みを与えることを企図した。2020年度のなかばに刊行される予定である。 (3)本研究計画のこれまでの成果をふり返りながら、計画終了後を見据えて新たな研究に着手した。本研究は、自己アイデンティティおよび自他間で生成する間主観性について、身体性に着目することで基礎的な構造を解明することに主眼を置いてきた。今後は、行為と連続させて心の機能を考え直すという本研究の理論的枠組みの延長線上で、より高次の認知(とくに想像力と言語)について解明することを目指す。この目標のもと、幼児の「ふり遊び」、および対話とナラティヴについての研究に着手し、関連する学会発表を5件実施した。
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